夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

クィーン 後編

明け方、依頼人からの指示でその子を成田空港で待つ依頼人の元まで届けた俺は、何時になく疲労した重い身体を事務所のソファーに沈めた。親子ほどの歳の違いに戸惑うも、消えることのなく残るあの子の存在感が、自分にはもう縁のないことと諦めていた淡い想いを呼び起こさせた。俺もクィーンの妖艶な毒気に当てられたかと自嘲めいたが、性的な欲望が催すことはなかった。

翌日、夕食から戻った事務所のビルの前で呼び止められ、振り向いた先にその子の姿を目にしたときの驚きは、言葉さえ見つけることは出来なかった。思いもよらぬ成り行きが信じられず、怒りさえ覚えた俺に、その子は悪戯な微笑を向けた。
「帰ってきちゃった」
「どうゆうことだ!」
「飛行機には乗ったんだけれど、乗客の男の子が、急に心臓の具合が悪くなって、成田に引返すことになったよ」
「お前まさか・・」
「エッチなドクターに小粒の薬を貰っていたのを思い出してね」
「僕を成田に送ったことで、彼方の仕事はもう済んだはずだ。僕は彼方の客ではなくなった。二時間もここで待って身体が冷えちゃった、早く事務所に入れろよ」
最後はクィーンのような命令調になったその子に、俺は大きな溜息を吐き、諦めてドアの鍵を廻した。

ドアを閉めるや否や、抱きついてきたその子に唇を塞がれた。突然のその子の行動に呑まれ、たじろいたが、なぜか悪い気はしなかった。同性との口付けは初めてではなかったが、その子の情熱的な口付けに応えることが出来ない虚しさが胸を締め付けた。
「彼方に言われたこと堪えたよ、生まれて初めて他人に説教されて恥ずかしかった」
「父には絶対に迷惑をかけないと誓ったよ、もう一度だけチャンスをくれって」
「彼方の慰めがいつまでも消えなくて、クィーンは卒業するけど、卒業記念にどうしても・・」
「俺は卒業記念品か、とんでもない不良品だぞ」
「不良品かどうかは、開けてみないと判らないだろ?」
妖しく潤んだ瞳を輝かせ、俺の股間を撫でたその子に、俺は人生最期の一縷の望みを賭けた。駄目でも、もう俺には失うものは何もなかった。


招き入れた自宅の小さなバスタブに冷えた身体を絡ませ、唇を啄ばみ、その子の手入れされた滑らかで張りのある素肌を手の平で堪能はしたが、俺の股間に顔を寄せ、その子の周到な唇の愛撫にも反応しないお粗末な性器が腹立たしかった。独り興奮したその子をもどかしく見詰めた俺は、忌まわしい過去を断ち切れなかった、自分の弱さを改めて知った。

高三の秋、俺は愛犬に引っ張られ、散歩途中の河川敷で女の死体を見つけた。初めはマネキンかと思ったが、異様な匂いと、うつ伏せに倒れた女のスカートが腰まで捲くり上げられ、泥だらけの豊満な尻から覗く陰毛と初めて見た女性器に驚愕し、自宅に駆け込んだ。事件は交際していた男の犯行と判り、すぐに解決したが、友人たちは死体のことを根掘り葉掘り聞きたがり、俺はちょっとした有名人になったが、しばらくの間、死体の幻影が脳裏から消えることはなかった。

その事件が切掛けかどうかは今では思い出せない。若干の武道の心得があった俺は刑事になることを目指し、警察官の採用試験を受け合格し、警察学校で規律を叩き込まれた後、交番勤務に就いた。日勤と夜勤か交互する過酷な勤務、絶対的な縦社会にも慣れ、実績を積むべく人一倍努力をしたが、刑事課への道のりは、知れば知るほど余りにも遠いものだった。
あれは三十歳を早過ぎ、どうにか昇任試験に合格し、晴れて巡査部長に昇級して二年が経った頃だった。勤務交番に事件の一報が入り、駆けつけたアパートの部屋で若い女の全裸変死体を目撃してから、俺の歯車は狂いだした。目を見開き、床に転がる全裸死体の生々しさが、河川敷の死体を鮮明に蘇らせ、毎夜のように俺を苦しめ、血気盛んだった身体に変調をきたした。同僚が一人、また一人と所帯を持つようになり、独身の俺は正直焦った。
意を決し、遠方の夜の盛り場に荒治療に通ったが、口では同情されるも、最期は小馬鹿にされるだけだった。もしかしてと試みた、同性との関係も自分の思い過ごしに終わった。

何軒かの泌尿器科の診察を受けたが、身体に異常はなく、どの医者も精神内科の受診を勧めた。職種柄、精神科を受診することは致命的で、刑事課への道は完全に途絶されることは判っていた。俺は身体、否、精神の病を隠し、何気ない顔で勤務に向ったが、日増しに膨れ上がる、女性への畏怖の呪縛から些細なミスを重ね、俺は重大な失敗を犯す前に退職を決心した。退職願を受け取った直属の上司は自分の経歴に傷が付くことを怖れ、露骨に眉を顰めたが、勤務中のトラブルが全くないことに知ると、ささやかな送別会を開いてくれた。
警察に十年以上勤めたキャリアは、再就職には困らなかった。身体の欠陥を素直に受け入れた俺は、大手の警備会社に就職した。

或る資産家の男性の警護に就いた俺は、警察で叩き込まれた仕事ぶりと、自分では当たり前のことだが、身持ちの堅さを認められ、警察官時代の同僚や上司と密かな情報のパイプを築いた俺は、私設秘書にスカウトされた。厚遇も魅力だったが、自分の知らない世界への好奇心が、刑事を目指した頃の気持ちと重なった。雇主の第一線からの引退を機に、俺は独立を勧められた。男の紹介で岩本町に建つ、古びた三階建ての二階に事務所を構えると、男の人脈の広さからだろう、すぐに仕事が舞い込み、どうにか食うには困らなかった。今回の件も男の繋がりで引き受けた仕事だった。



男として情けない醜態を晒した俺は、狭い洗い場に立たせたその子を背中から抱え、泡立てた石鹸で全身を詫びるように洗った。小さな乳首に指を這わせ、俺の腕の中で身悶えるその子がなんとも愛おしかった。それでも性器に触れることのない俺に業を煮やしたのか、俺の手を掴むと待ちわびたように勃起させた性器を握らせた。鋼のように硬く反り返る熱いその子の性器、俺の拙劣な愛撫にも悩ましい呻き声を上げ、囈言のように性感の高まりを不能の俺を煽るように口走るその子。
思春期を迎えた男子の誰もが、初めて経験した精通の快感の虜になり、自慰に耽った記憶が指先から脊髄に伝わり、その子の柔らかな尻臀が押し付けられた俺の股間に、思いもよらぬ異変が生じ、俺は驚きを隠せなかった。
「嘘つき、どこが不良品だ」
「どうしたんだろ・・」
「よせ、触るな」
その子をきつく抱き締めた俺は、何十年ぶりかに膨らみ始めた性器をその子の尻臀に擦りつけ、その子の性器を自分の性器に見立て、まるで自慰するように夢中で扱いた。すぐに迎えたその子の絶頂、何度も床を叩く射精に、俺の腕をきつく握り締めては尻臀を激しくうねらせ、俺の性器を刺激し、快感の長い悲鳴が湯煙で曇った浴室に木霊した。その子の射精に釣られた俺は、噛み締めた唇から切ない呻き声を洩らし、その子の尻の谷間に、二度と経験することはないだろうと諦めていた絶頂を吐き出し、立ち眩みするほどの快感に腰を抜かした。



職業上の勘が当たり、東京に戻ったその子に、案の定、怪しい尾行がついたことを察した俺は、その子と連絡を取り合い、軽率な行動を控えるよう、その子の隠れたお目付け役を自ら買って出た。俺の指示を素直に受け入れたその子は無闇な外出を控え、しばらくすると、その子の父親のビジネス?の目処が立ったのだろうか、尾行が解かれたことを確認した。

長髪を黒く染め直し、休学していた大学に通い始めたその子は、ふと洩らした俺の一言に口実を見つけ、週末になると自宅に押しかけて来るようになった。大学で外国語を専攻するその子は俺の語学の家庭教師になり、五十の手習いに悪戦苦闘する俺を尻目に、独りシャワーを浴びては 万年床の俺のベッドの上で、男とも女ともつかない中性的な、たおやかな肢体を披露し俺を誘った。
長く深い口付けで濡れた唇をその子の細い首筋から胸に這わせ乳首を突起させ、俺の劣情を刺激する小さな下着に指先を潜らせた。腰の紐を解き、肌蹴た下着から飛び出した剃毛した性器に目を見張り唸った。上気した顔を枕に埋め突き出した、いかにも少年らしい小ぶりの尻臀を覗き込み、両手を尻臀にかけて左右に押し開き、剥き出しになった肛門に舌を伸ばし舐めまわした。色づいたその子の悩ましい呻き声が俺の股間に響いた。
「指、挿れて」
愉悦を知った少女のような、その子の掠れた声に頷き、唾液で濡らした指が息づく肛門に吸い込まれていった。根元まで差し込んだ指を曲げ、指先に力を込めると、艶めかしい喘ぎを洩らし、股間で脈打ち絶頂への呼び水を滴り落とす、その子の真っ赤な性器が愛おしかった。
「やめろ、よせ・・」
羞恥心に震えていた少女が一転、恥辱に耐えかねた少年のように可愛い悪態を吐き、迎えた絶頂に指を締め付け、狂おしいまでに乱れるその子の醜態が、俺を益々夢中にさせた。息つく間もなく、ベッドに倒された俺は、その子の柔らかくした唇と細い指の濃厚な意地悪に性器を痛いほど勃起させ、年甲斐もない、恥ずかしいほどの射精をその子の前で晒した。

東京に初雪が積もり、通るクルマのない静かな晩、何時になく興奮激しいその子に導かれ、俺は生まれて初めて人と身体を繋げた。布団を頭まで被り、丸めた汗ばんだ身体に覆い被さり、眉間に皺を寄せ、喘ぐ唇を音を立てて吸い合った。初めて体感した最愛な恋人との一体感が、忌まわしい過去のすべてを断ち切る術を俺に授けた。身体を貫く異物感に萎えた、その子の濡れそぼる性器がいじらしく、何度も襲う快楽の波を戦慄く身体で押さえ込んでは、その子の性器に思いの丈をぶつけた。俺の拙い愛撫に膨らみを取り戻し、熟れた悲鳴を上げたその子の熱い絶頂が、絡めた指の間から溢れた。すぐに襲った強烈な締め付けに俺は我慢できず、その子の身体の一番奥に腰を沈め、絶頂を注ぎ込み、その子への愛を口から洩らした。
離れたくない、離したくなかった。ミイラ取りがミイラになってしまったことに後悔はなかった。人生の折り返し点を過ぎ初めて知った、人を愛することの喜び、失った青春を取り戻した俺は、腕の中で寝息を立てる愛しいその子の頬に唇をそっと寄せた。


終わり。




寒中お見舞い申し上げます。

昨年中は、親愛なる読者の皆様のご愛読、誠にありがとうございます。
おかげ様で、今年初めてのお話をアップすることが出来ました。
相も変らぬ拙いお話で恐縮ですが、男の悲哀を少しだけでも、お汲み取りいただければ
嬉しい限りです。
それでも、オメデタイ?新年ですから、最後はねぇ・・(笑)

今年もお付き合い、どうぞよろしくお願いいたします。



PS: 昨年末のお話にて、大きなミスを犯してしまいました。
拍手していただいた読者の皆様に、心よりお詫びいたします。


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コメント

”その子”のクイーンとしてのお仕事?がどんなだったか、
すっごく興味が沸いちゃいました^^

  • 2013/01/19(土) 22:19:12 |
  • URL |
  • 門倉 歩惟 #-
  • [ 編集 ]

歩惟さん ありがとうございます。

小説のキャラクター、アイお姉様のイメージをお借りしました。
お仕事? それはもう・・
今年もよろしくお願いいたします。



  • 2013/01/20(日) 00:48:08 |
  • URL |
  • アル #-
  • [ 編集 ]

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