夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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クィーン 前編

青山三丁目交差点を左折し、飛ばす深夜タクシーを追うようにキラー通りを抜け、外苑西通りの裏路地に建つ雑居ビルの地下にそのクラブは隠れるように在った。members onlyと書かれた重いドアを開けると、暗い廊下の奥から現れた武骨な黒服の男が俺の前に立ちはだかった。
「何方かのご紹介ですか?」
柔らかな物言いだが、男の鋭い眼差しが警戒心を解くことはなかった。
「クィーンはいるかな?」
黒服の表情に一瞬緊張が走り、瞬きが増えたことを俺は見逃さなかった。
「クィーン?そのような方はここには居りませんが」
此処にもクィーンが出入りすることを確信した俺は、ポケットから無造作に万札を取り出すと、男の目の前で四つ折りし、携帯番号を書いたメモと一緒に男に胸ポケットにねじ込んだ。
「もしクィーンが来たら連絡してくれ」

緊急にクィーンを探せと、或る男からから依頼を受けてから5日が経っていた。クィーンの出入りしそうな所を虱潰しに当たったが、居所はつかめなかった。約束の期限まで、あと2日に迫っていた。依頼に反することは信用問題に係るし、何より俺のプライドが許さなかった。
日付が変わった真夜中に、ばら撒いた鼻薬が効いたのか、一人の男から連絡が入り、俺は男にもう一つ頼み事を引き受けさせ、急いで曙橋にクルマを走らせた。
人通りのない靖国通りの古びたマンションから少し離れた所にクルマを止め、薄暗いエントランスを凝視した。カーラジオが午前2時を告げ、しばらくすると件の男から携帯に合図が届き、俺はエントランスから出てきた人影を目で追った。流行のダウンを羽織り、大きなボンボンが付いたニット帽を深く被りマスクで顔を隠した少女の行く手を塞いだ。
「君がクィーンか?手荒なまねはするつもりはない」
少女は驚きに立ち竦んだが、すぐに事の成り行きに観念したように顎で小さく頷き、自分で助手席のドアを開けた。車内に充満する少女の容姿に似つかわしくない、きついオーデコロン、両手をポケットに突っ込み、終始無言で外を見詰める少女に、俺はどうにか期限内に仕事が遂行したことに安堵した。後は依頼主からの連絡を待つまで、事務所に少女を軟禁しておけばよかった。

物珍しそうに事務所の中を見回した少女は、真ん中に置かれた来客用のソファーに腰を下ろした。スプリングの伸びた年代物のソファーは小柄な少女の体重にも鈍い音を立てた。
「汚い事務所だね。僕はいつまでここにいればいいのさ?」
「僕?君は・・」
ニット帽を脱ぎ捨て、マスクを外した少女は、垂れた栗毛色の前髪をかき上げ、大きな瞳で俺を睨みつけた。見るからに柔らかそうな素肌、薄い唇、鼻筋の通った美少女のような、その子の容姿に、俺は目を見張った。
「一様、性別は男になっているけど」
ダウンジャケットを脱ぎ、オフタートルのニットを細いパンツに合わせた中性的なスタイルを見せ付けるように科を作った。
「驚いたな、クィーンというから女性だと思っていた」
「聞いてなかったの?」
「聞いてはいなかった、まあ、性別はどうでもいいこと、お前を見つけさえすれば俺の仕事が終わる」
「ねえ、父に頼まれたの?」
「この仕事は口が堅くないと勤まらない」
「こんなこと頼むのは、あいつ以外には考えられないけど、臆病なあいつは、直接頼むことはしないことは判っているよ、どうせ僕は、兄や姉と違って家族の厄介者だから」
「君が厄介者?」
「そうさ、父のスキャンダルになるから、僕が邪魔なのさ」
「俺はお前の父親は誰だか知らんが、立派な父親がいて、何不自由なく暮らせて、いい身分だと思うが」
「あいつが立派な父親だって?お笑いだぜ、家族を省みないで、好き勝手やってる」
「それじゃあ聞くが、お前が好き勝手やっているのは、父親譲りということか?」
「ふ、ふざけんな!あんたに何が判る!」
痛いところを突かれたのだろう、その子は顔を紅潮させ怒りを露にし、食って掛かってきた。
「まあ、落ち着け、コーヒーを淹れる」
簡単な仕事だと思い、安請け合いした依頼が、思いのほか難儀したことに苛立っていた俺は、子供相手に口喧嘩を吹っかけたことに、まだまだ修行が足りないことを痛感した。




「上手いコーヒーだな」
「貧乏はしているが、コーヒーだけは散財している、普段は出がらしの茶しか出さないが、上客には振舞う」
「僕は上客か・・」
カップを両手で握り締めたその子は、醒めたように冷笑し、少し落ち着いた表情を向けた。
「何で僕がクィーンと呼ばれているか判るでしょう?彼方に見つかったマンションに出入りする、男や女の相手をして、秘密の性癖を満足させてあげるから、そう呼ばれるようになったよ」
ソファーに座るその子を俺は見下ろすようにデスクの角に腰掛け、タバコに火を点けた。

「クラブに通う、あいつらの欲望の女王になってね、老いも若くも、誰も彼も、僕に平伏して、不自由な身体で足元にすがり付いて、妻や夫や恋人には絶対に見せない醜態を晒して、屈辱の行為を懇願するんだ」
「男とも女ともつかない僕を崇め、こんな僕でも必要とする人間がこの世にいることを知ったよ」
「お前を本当に必要としている者は、あそこに出入りしている輩ではない、世の中にはお前のことを心配しながらも信頼し、必要としている者が居る、それをお前は知ろうとしないだけだ」
「あんたのようなクズに言われたくない!」
「そうだな、お前の言う通り、俺はクズで人様に自慢できるような人生は送ってはいない、だが、お前だって、親父がいなくなれば、今のような生温い生活が出来なくなる、すぐに俺と同じクズに転落だ」

「僕はクズかぁ・・」
その子は震える唇で呟いた。
「初めはあいつへの反抗だった、あいつを困らせてやりたかった、でも次々入る指名が嬉しくて・・」
「でも僕、セックスは一度もしたことがないよ、嘘じゃない本当だよ、触らせたこともないんだ!」
仕事の流儀に反することだったが、大粒の涙で瞳を潤ませ、震える肩をそっと抱き、俺の膝の上に泣き崩れたその子の背中を慈しむように優しく撫でた。先程までのマンションでの淫蕩な行為を思い出したのか、自らの告白と俺との言い争いで昂る神経がそうさせるのか、何を思ったか、その子は興奮した自分の股間に俺の手を誘い、そして俺の股間を擦った。
「逃げないから・・」
「くだらん真似をするな」
俺はその子の手を払い除けた。
「僕が男だから?」
「性別は関係ない」
「彼方の言う上客の僕が頼んでも」
「この仕事は公私混同してはいけない、俺は色恋が出来ない、だからこんな家業が勤まる」
「どういうこと?」
「男として情けないことだ」
「冗談だろ?」
「本当さ」
「効く薬があるじゃないか」
「薬を呑むほど、惚れた恋人はいない」

毎度のことだと苦笑いした俺に絶句したその子は、俺の不能をからかい、冷やかすことはしなかったが、意気消沈したように、もう何も話さなくなった。


続く。


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コメント

拍手コメントへのお礼

・・・ 様

コメントありがとうございます。

少し雰囲気の変わったお話に出来たらと思い
書き始めましたが、悪戦苦闘しております。

今年もご愛読、よろしくお願いします。

  • 2013/01/09(水) 23:07:48 |
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