夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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ルームシェア

無精髭が伸びた男と茶髪にした優男の二人のルームシェアに、難色を示した不動産屋に、なんと、年下のケイは家賃の半年分を前払いし、レンとケイは二人で、調布郊外の一軒家に住むことになった。
行き付けの食堂で知り合った二人は、偶然にも笹塚の同じワンルームマンションに住んでいることに驚き、近づく部屋の契約更新にレンが頭を悩ませていることを話すと、もう少し広い部屋に移りたいと考えていたと言うケイは、それならば、二人で住まないかと、レンに話を持ちかけたのだった。

レンは一浪までして、無理を言って東京の美大に通うことを許してもらった手前、仕送りの増額を頼むことは心苦しく、ケイの提案は渡りに舟だったが、一人住まいに慣れた生活で、果たして他人と住むことが出来るか、ましてや、知り合って間が無い二人が、上手く共同生活を送れるのか不安だった。
そんなレンの心配を察したように、ケイは笑顔と強引さで、躊躇するレンを説き伏せ、新しい生活に引っ張り込んでいった。
調布飛行場近くの平屋で、建物も設備も年季がはいっていたが、板張りのダイニングとリビングを挟んで、ドアで仕切られた二つの個室が理想に合っていたし、レトロな雰囲気を醸す、玄関脇に植えられた棕櫚の樹を二人は気に入っていた。

バイトの傍ら、調理師学校に通うケイは、朝早く出掛け、夜遅くに帰宅することが多く、笹塚の狭い部屋では思うように捗らなかった、
絵画の課題制作に没頭するレンは、留守番役が多かったが、二人揃った休日には、ケイは習ってきた料理をレンに味見させ、レンは制作途中の作品を披露しては、ケイに感想を求めた。
そして、天気の良い日は、近くの野川公園に散歩に出掛け、二人は将来の夢を語り合い、友人として相手を温かく思いやる気持ちが芽生えていった。


先日の雷雨を境にうだる様な残暑が和らぎ、朝晩の涼しさが秋の到来を感じさせた。国道と首都高に囲まれた、騒音激しい笹塚のマンションの部屋では聞くことが無かった、虫の音が聞こえる深夜、ドアに差し込まれた鍵の音で、レンは目を覚ました。
いつになく晩く帰宅したケイは、そのまま自室に入り、しばらくすると、ケイの啜り泣きにレンは驚き、身体を起こした。
共同生活を始める決め事の一つに、お互いのプライベートなことには立ち入らないことを約束はしてはいたが、同居人のレンの存在を意識しても、漏れる悲痛な泣き声に、レンは居ても立っても居られず、お節介を承知で、急いでケイの好きなカフェオレを沸かし、ケイの部屋を慎重にノックした。

「ケイ、カフェオレ淹れたから、一緒に飲まないか?」
すぐに返事が無いことは判っていた。理由は何にしろ、泣き声を聞かれたことは、ばつが悪いし、まして歳も変わらない同性に聞かれたことの恥ずかしさは、レンにも痛いほど判っていた。
レンは明りを消していたリビングの床に腰を下ろした。カーテンの隙間から、不穏な青白い月明かりが、小さなテーブルに並べたカップを照らし、耳を澄ませても、ケイの気配は聞こえず、庭で鳴く、重い気分を騒がす、虫の音だけが部屋に木霊していた。



悩んだ末のように、音も無く、開いたドアから、放心激しい重い足取りで出てきたケイは、レンの傍らに膝を抱えて座り、俯いて、レンとは顔を合わせようとはしなかった。
こんなとき、どんな言葉を掛ければいいのか、気の利いた言葉の一つさえ、浮かばない。
ありきたりの慰めの言葉も、今のケイには感情を逆撫でするように思え、思わずレンの口から出た言葉は、的外れなものだった。
「秋になったね。東京では虫の鳴き声なんて、聞こえないと思っていた。でも此処では、懐かしい虫の音が聞こえる。月だって、俺の部屋は北向きの二階だったから、ビルの隙間から少しだけ見えるだけだったけれど、満月を見たのはしばらくぶりだよ」
「俺は、此処に引越し出来て本当によかった……」
「レンさん……」

泣き腫らし瞼、誰かに殴られたのだろう、口元の残る瘡蓋。余りの痛々しいケイの姿に息を呑んだレンは、込み上げてくる感情を抑えることが出来ず、思わず声を荒げた。
「どうした!誰にやられた!」
レンの怒鳴り声に、さらに身を小さくさせたケイは、もういいんだとばかりに、首を小さく何度も振り、両手首に残る、うっ血を揉み消すように擦り、震える両手でカフェオレに口を付けた。
「おいしい」
「レンさん、ありがとう……僕も此処に越せて、良かったと思っているよ。レンさんと暮らせて」
溜息を吐き、少し落ち着いた様子を見せたケイに安心し、部屋に戻るつもりで膝を起こしたレンの腕に縋ったケイは、懇願するように弱々しい眼差しをレンに向け、レンは座りなおした。

「レンさん、今夜、僕、男と別れてきた」
「――男と?」
レンは聞き間違えたと思い、ケイの言葉を反芻した。
「そう、男と……ずっと付き合っていた。こんな僕のことを理解してくれてた男……ずっと判っていてくれていると思っていた……だから、彼の望むことなら、何でもしてあげた、寂しい彼の望むことなら……僕も寂しかったから……」
「でも、あいつは、僕にずっと嘘を吐いていた」
「夢中になった僕も、夢中にさせた僕も悪かったよ。でも、大好きな彼の嘘は悲しかった……」

「僕、好きな人ができたから別れるって言ったら、この様。笑っちゃうよね。殴られ、縛られ、叩かれて・・めちゃくちゃにされて……」
「悔しくて、悔しくてさ、生まれたばかりの、あいつの可愛い赤ちゃんのことを言いつけたら、あいつ脅えた顔してさ」
「本当は、そんなこと言いたくなかった……言いたくなかったんだ。いい思い出だけ残して、別れられると思っていたのに……」
「なんで、嘘吐いていたんだって。なぜ、なぜって……はじめから、本当のことを言ってくれても、僕は大好きだったのに……」
「僕には絶対、隠し事をしない人だと思っていたのに……」

肩を震わせ、ケイは何度も言葉を詰らせては涙を拭った。恋愛経験が全く無く、人を切実に好きになったことも、勿論失恋したことも無いレンさえも、ケイの悲痛な告白に胸が痛んだ。


続く。


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