夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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チコ 4

アルのアーカイブより。

「住み込みに使えと言ったら、年寄りには無理だと断られた」
「ホテルの洗車員に乗らないと駄目だと脅かされてな」
「チコ、こんなクルマは嫌か」
「いえ・・」
「僕に運転できるか」
「心配するな」
「運転が下手糞な米国人のクルマだ」
「チコ、今夜は遠回りしろ」
私は先に低いシートに身体を潜らせた。小ぶりの尻に食い込むようなスリムなセンターブレスのパンツに黒のハイゲージニットを細い身体に合わせ、長いマフラーを緩く巻いて妙子のクロスのペンダントを隠していた。女だか男だか分からないようなスタイル。チコはいつの間にか私の好みを理解していた。
不慣れな運転に揺れたクルマも深夜の湾岸線の看板を越えた頃から落ち着き、チコは何気ない口調を装い、言い難い用件を切り出した。

「芳村さん」
「妙子さんのお手伝いが出来ないかと」
「手伝い?」
「はい」
「妙子の何を手伝う」
「妙子さんのお店の・・」
「妙子さんには言いづらくて」
「窪田さんにお願いしましたが・・相手にしてくれませんでした」

「チコ、妙子の店で何が出来る?」
「えっ?」
「もう一度聞く」
「お前は店で何が出来るんだ」
「・・・」
「自惚れるな!」
神経質なクルマが左右に揺れ、脅えたチコは小さなステアリングを握りなおした。

「窪田は言われなくても分かっているが」
「妙子はお前の素性を店の者に話したりはしない。だから店の者は、お前をどう扱っていいのか」
「耳障りのいいことを店の者に言われ」
「お前は、それを認められたと」
「勘違いしている」

「チコ」
「妙子は利口だ」
「お前に興味を持つ上客が何人かいることを知って」
「用を言いつけては、店に顔を出させる」
「今夜のような、暇な週明けを選んで」
「でも、世話になっている妙子さんに・・」
「寝てやれ」
「妙子はお前が欲しいと」
「・・・」
動揺を隠すように踏み込んだアクセルに、重心を下げたクルマは道路に張り付き、唸りを上げたエンジン音は、チコの心の叫びのように聞こえた。

真夜中の地下駐車場のエレベータホールのエントランスの前にクルマを止めさせ、有りもしない予定を気にしたように腕時計を一瞥した私は、明らかに憔悴するチコを残し、重いドアを開いた。
「クルマは、お前に任せておく」
「好きにしろ」
「わかりました・・」チコは諦めたように、私に顔を向けることもなく頷いた。
乗り込んだエレベーターのドアが閉まるやアイドリングの音が、野太い排気音に変わった。


ジャケットを脱ぎ、コップに注いだミネラルオォーターを置いたデスクの上で、携帯が小さな音で震え光った。私の携帯番号を知る数少ない者。
「・・・」
「・・チコです」
「お仕事のお邪魔でなければ、伺ってもいいですか」


続く。
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