夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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意地悪

「僕、何か変でしょうか・・」
 ホテルの部屋で、向かい合いソファに座るその子は、困惑した表情を私に向けた。
頬杖を付き、目の前に座るその子を無言で眺める私のことが気になったようだった。
「可愛いなあ、と思ってね」
「えっ」
「可愛くないです」
「いや、可愛い」
「そんなに真剣な顔で言わないで下さい」
「私には勿体ないくらい」
「可愛い」
その子は照れたように視線を落とした。

「男の人に可愛いなんてはじめて言われました」
はにかんで頬を赤らめるその子に私の加虐趣味がそそられた。
「そう、君の周りは見る目がないね」
「僕の想いを分かってくれる人は・・」
「周りにはいません」
「君の想い?」
「どんなことかな?」
「お分かりのことと思います」
恥ずかしそうに俯き、その子は呟いた。

「顔を上げなさい」
驚いて顔を上げたその子は潤んだ瞳を私に向けた。
「話してごらん」
「恥ずかしいです」
「話なさい」
その子は私の視線から逃げるようにゆっくりと顔を背け、窓の向こうに映る夕暮れの高層ビルを見詰めながら、言葉を選ぶように話しはじめた。美容師という仕事柄、綺麗にヘアダイした栗毛色の髪、鼻筋が通った横顔が美しかった。

「男の人に抱かれてみたくなって・・」
「男に抱かれる?」
「君は同性愛者ではないと言っていたが」
「ええ、違うと思っています」
「でも・・」
「でも?」
「言ってごらん」
「僕は小さいときから人一倍、女性の姿に興味がありました。学校帰りに髪を綺麗にセットして、お洒落に着飾った女性がいると、思わず立ち止まったりして」
「子供だったので性的な興味ではなくて、綺麗なものに憧れていたんです」
「その憧れは僕の中にずっとあって、今の仕事に就いたのもその思いからなんです」

「憧れだけで、君は此処に来たわけではないだろう? 君の容姿なら女の子にもてると思うが」
「女性とはお付き合いしたことあります」
「性交渉だってあると思うが」
「はい・・」
「ちゃんとできたんだろ?」
「ええ、でも、なんだか違うような気がして・・」
「満足できなかった?」
「まあ・・」
「はじめはこうゆうものだと思っていましたが、違うような気持ちが大きくなってきて」
「夢中にはなれなかったんです」
「それは君と彼女との相性が悪かったことかな?」
「自分でもずっとそう思っていました。でも次にお付き合いした女性ともその気持ちが強くて・・」
「実は彼女からいつも彼方は別なことを考えているようだと言われ、ふられました」
「言われてみれば彼女の言うとおりで、彼女のことは嫌いではなかったのですが・・」
「本当は、僕は彼女に抱かれたい願望のほうが強いんだとそのとき気付きました」





「それから僕はある切っ掛けで女性の下着に手を出すようになって・・」
「ある切っ掛けとは?」
「お店に届いたランジェリーのカタログを見たんです。仲間は皆、写真のような下着を着た女性と
セックスしたいと言いましたが、僕はその綺麗な下着を身に付けたモデルのような女性になって
みたいと密かに思いました」

「日増しにその思いが強くなって、自分の気持ちに抗うことが出来なくなって、悩んだ挙句に
自分の名前に子を付けてネットで注文しました」
「届いた包みを開けたときのことは、今でも忘れられません」
「すぐに、裸になって下着に脚を通したときの興奮は想像していた以上のものでした」
「それから、取り憑かれたようにいろいろな下着を揃えては身に着けて、鏡に映る自分の姿に
激しく興奮していました」
「自分の求めていたものがはっきりと分かりました」

「だが、君はそれだけでは満足できなかった」
「ええ・・」
「自分の中で益々大きくなる女の欲望を満足させたくて・・」
「理想とする女性を演じて、自分の身体を女の人の身体と入れ替えてみて」
「はじめは自分の指で満足していたんです。でもすぐに指では満足できなくなって・・」
「それで?」
「小さなゴムのステックを買いました」
「指とは違って、なかなか上手く入らなかったけど、すべてをのみ込めたときの悦びは、
ついに女性の身体を手に入れたようでした」
「嬉しかったんです」

「でもその細いステックに馴染んだ君の身体は、それ以上の物を求めた」
「違うかな?」
その子は斜めに揃えた膝の上に置いた両手を握り締め、視線を床に落とし小さく頷いた。

「メールに書いたように、本当はペニスの形をしたディルドなんか、絶対買わないと決めていたんです」
「でも、でも・・」
「どうしても・・」
「それをやっとのみ込める様になったら・・」
「今度は本当の女の人になってみたくて・・」
「女の人のように・・」

肩を震わせ涙声で自分の想いを告白したその子に、昔の自分の姿を重ねた私は、その子への捻くれた自分の態度を無言で詫びながら立ち上がり、窓のカーテンを閉め、うな垂れるその子の両肩にそっと手を置いた。
「いい子だ。少し意地悪が過ぎましたね。許してください」
「さあ、見せてください」
「いや、君のすべてが見たい」

明りを落としたベッドの淵に腰掛ける私の前で、お気に入りのタイトな女性用のスーツを震える指で脱ぎ、艶やかなレースの揃いの純白の下着姿で恥ずかしそうに立ったその子。
「素敵だ」
「やっぱり、私には勿体ないくらい可愛い」
何度も首を横に振るその子の細い腕を取り、力を無くした華奢な身体を抱き寄せ、グロスで光る小さな唇にそっと口付けした。そして、すでに激しく興奮して濡れて尖った股間に手の平を重ねると、その子は安心したような溜息を漏らした。

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