夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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武蔵野奇談 「雨跡」



朝方まで降った雨で残暑が一息付き、礼一郎は気分転換を兼ねスケッチブックを抱え
野川公園に散歩に出掛けた。
二枚橋を渡り、初秋を知らせる虫の音が響く野川の辺を歩く礼一郎の前に、
しゃがみ込み川のせせらぎを眺める日傘を差した女性。
礼一郎が近づくとすっと立ち上がり日傘を閉じた。

「真女子さん!」
「榎木様」
「ど、どうして此処に」
「此方に来れば榎木様にお会いできる気がして・・」
「まさか」
「まさか・・」
真女子の謎めいた妖しい微笑みに唖然と立ち尽くす礼一郎、すべての成り行きを
承知しているような真女子に言葉が出なかった。


淡いピンクの開襟ブラウスをグレーのタイトなパンツに合わせ、
まるで礼一郎の好みを知り尽くしているような真女子のスタイル。
「わたくしお転婆で、スカート穿いたこと無くて」
「男の方は私のような女は嫌いなのは分かっています」
「そんなことありません!」
「私は真女子さんのような女性が・・」
思わず「好き」と口走りそうになり、慌てた礼一郎は真女子を散歩に誘った。
「真女子さん少し歩きませんか」
無言で頷く真女子。

思いもよらぬ真女子との出会いにはしゃぐ礼一郎に、二人の仲はすぐに打ち解けて、
真女子が礼一郎のことを苗字ではなく名前で呼ぶようになると、
触れたお互いの指先が優しく握り合い惹きつけられ、
礼一郎は木陰で真女子をそっと引き寄せた。
華奢な身体が礼一郎の腕の中で小さく震え、恥ずかしそうに俯く
真女子の唇をそっと塞いだ。

「真女子さん、好きです」
真女子の甘い溜息が漏れ、力を無くしはじめた身体を礼一郎は受け止め、
抱き締めた。
「私は貴女が・・」
「ごめんなさい!」
突然の行為に驚いたように礼一郎の腕をすり抜け、真女子は駐車場に向って駆け出した。
後姿を追う礼一郎を振り切り、車に飛び乗った真女子の涙ぐむ横顔。

「真女子さん」
「待ってください」
「真女子さん!」
ドアに縋る礼一郎に顔を向けることなく車を発進させた真女子。
礼一郎はジャガーの赤いテールランプを追ったが、追いつくことは出来なかった。





真女子に逢えた喜びもつかの間、真女子の気持ちも省みず
自分の愚かな行為を嘆く礼一郎。
しかし、真女子への恋しさは如何ともしがたく、
食事は喉に通らず痩せ細り毎夜うなされる始末。
礼一郎は彼岸の入りより降り続く秋雨にもう一度願いを託し、
真女子の名前を書いた。

「礼一郎様」
「礼一郎様」

寝室で礼一郎を呼ぶ声。目を覚ました礼一郎。
驚いたことに開いたドアに立つ真女子。
「ま、真女子さん」
ベッドから起き上がろうとした礼一郎だったが、裸の自分の姿に驚き、
なぜか身体に力が入らず身動きがとれないことに動揺した。
「私は一体・・」
「身体が動かない」
部屋の中に入ってきた真女子はベッドの脇に立った。
「このようなお姿、お労しゅうございます」

「真女子さん」
「礼一郎様」
「来てくれたのですね」
「あの手帳が?」
「さようでございます。公園でお会いしたのも、手帳の所為」
「真女子さん、先日の無礼許してください」
「いえ、わたくしこそ失礼を悔いております」
跪いた真女子は投げ出した礼一郎の腕に手を重ねた。
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