夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

ももこと、妙子と、乳癌と

さくらももこが亡くなりました。53歳、若いですね。熱心な愛読者の悲しみは察するに余ります。漫画は言うまでもありませんが、彼女の書く話の可笑しさ、文章の上手さも、さくらももこの大きな魅力でした。私の本棚にも彼女のエッセイが何冊かあります。
「ちびまるこちゃんの作者」という冠が付いてしまうのか、どれも老若男女が安心して読める作品ですが、もし、彼女が小説家に転身したら、田辺聖子のような多才な女流作家になったのではないかと思っておりました。残念です。


乳癌で亡くなる方、それも若い方が多いですね。小林麻央もそうでした。
実は拙作「チコ」に登場する妙子のモデル、幼馴染みのS子も乳癌でした。
古い読者は、S子が誰なのかお察しいただけると思います。S子には年上の旦那と一人息子がいます。S子とは年に一度、いや数年に一度、忘れたころに彼女から連絡がありますが、十年近く会っていません。
三年前の春、S子から電話がありました。時節の挨拶を済ませ、お互いの近況を報告し合いました。電話では話しづらい相談があるから会ってくれと言います。急いた様子なので、翌日吉祥寺で会うことになりました。

私の薄毛をさんざんからかい、ハゲの自虐ネタで大笑いした後、「わたし癌なの」って、何事でもないように呟きました。
驚き慌てました。聞けば、入浴中に左の乳房に本当に小さな硬い物があることに気が付き、脂肪の塊かと思ったが、近所の総合病院で検査したところ乳癌の疑いが濃厚と言われたこと。セカンドオピニオンで癌研の乳腺外科を受診したところ、初期の乳癌と診断された。
治療は手術をすることになったが、乳房を残す温存手術か、乳房を取る全摘手術にするかどちらでもいいと医者は言う。手術当日までに決めてくれと。

いの一番に旦那に相談したが、妻が癌を宣告されただけで、取り乱し、まったく頼りにならない。それなのに、そんな手術が選べるような初期なら手術せずに、やれ免疫力アップだ、漢方薬だと、うるさくてかなわない。
「どう思う?」って……。

私同様、S子も早くに両親を亡くしています。女兄弟でもいれば、親身に相談にのってくれるでしょうが。
しばらくぶりに会って、病気で驚かされ、どう思うって相談されても、返答に困りました。
そりゃ若い時、一度だけ、S子の乳房に触ったことはあります。小ぶりで形の良い乳房だったと記憶しています。
乳房は女の命、女性美の象徴などと言われています。ですから医学の発達で、乳房を残す手術が行われるようになったのでしょう。しかし病は人それぞれ、治療はケースバイケースです。

相談したいと言ってきたS子でしたが、S子の本心はもう決まっているようでした。
S子は、子供の頃を知り、ヤンチャした気の知れた友人に話を聞いて欲しかったようです。
夕食に誘いましたが、旦那が早く帰ってくるからと、良妻賢母ぶりを見せつけました。
別れ際、いたずら心を起こしてS子の左胸を触りました。乳房はあの頃より大きくなっていました。手の平をぴしゃりと叩かれましたが、怒ってはいませんでした。

しばらくして手術が無事終わり、通院していると連絡がありました。どっちの手術を選択したのか尋ねましたが、「街中でおっぱい触るバカには教えないよ」
元気なS子の声に安心しました。


ひと夏の経験の続きは、もう少しお待ちを。


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