夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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ひと夏の経験 6

話の流れが、どうにも腑に落ちないとばかりに、雅子ママは気味悪そうにノリ子さんに顔を向けました。
「そうだった。ママ、ユミはあれから笹塚に移ったんだわ」
「ねえ、なんなの。笹塚繋がりのことばかりで……」
雅子ママが首を傾げるのも無理ありません。
すべての発端は、笹塚にある俺の部屋からはじまっているのです。

「ねえ遠山さん、あなたもお仲間なのは分かったわ。あなたを信用しないわけじゃないのよ、でもあの子に彼氏がいることがピンとこないのよ」
言葉を選び、真摯な態度が好印象を与えたのか、はやくもこの店の仲間のひとりとして認められました。
華やかな女性たちの秘密の会話に加わる……ついに俺も大人の男と認められたと感慨に浸ります。

「あのね遠山さん、ユミちゃん、男で大変な目にあっているの」
雅子ママはノリ子さんの顔色を窺いながら呟きました。
「大変なことですか?」
大変なこととは、いったいどんなことか、ましてや男がらみのこと、今度は俺が身を乗り出しました。
首をすくめたノリ子さんを気遣うように、雅子ママは浮かない調子で話を切り出しました。

「彼女がね、遊びに行くバーでね、事件があったの」
「あの子、遠山さんが見たような画像を自分のサイトに上げていてね、あなたが言うように可愛い形をしているから、人気者だったのね」
「自分の姿だけなら何の問題はなかったのに、週末はこのお店にいます、なんてお店の看板とかをアップしたから、居場所が特定されちゃったの」
「憧れの子がそこにいると分かれば、その手の男は会ってみたいと思うじゃない、あなたみたいに」
「――そ、そうですね……」
雅子ママは俺の下心をとっくに見透かしていました。

「はじめは偶然を装ってユミに近づいたのね。たぶんその男はサイトでユミとツイートし合っていたんでしょう。だからはじめて会ったのに、昔から知り合いみたいに意気投合してね、何度かそのバーで会っていたの」
「勘違いさせたユミも悪いの、男ってすぐ勘違いするし、思い込み激しいから」
「す、すみません……」
小心者の俺は自分のことを言われているようで、身を縮めました。
「あなたが謝ることないの!いい人ばかりじゃないってことなの!」
「その勘違い男が、場所もわきまえずユミに交際を迫ってね、ユミが色よい返事をしないものだから、嫌がるユミを強引にバーから連れ出そうとしたの」
「その場に雅の常連さんと居合わせたノリ子ちゃんが、この子、正義感強いから、仲裁にはいったの」

「二人のやり取りが、嫌でも耳に入ってさ、同類のユミのことを見下してバカにするから、頭きちゃってさ――遠山さん聞いて!わたしからは絶対に手は出さないかったわ」
話を引き継いだノリ子さんの鼻息が荒くなりました。

「もう売り言葉に買い言葉で、その男、頭に血が上ったのね、私の胸倉を掴んで押し倒そうとしたの、だからチョンと足払いしたら床にひっくり返って……」
「チョンとですか?」
「そうよー、軽くよ。しょうがないねって起こそうと手を貸したら、そいつ起き際、いきなりナイフを私の顔に向けて振り上げて」
目を吊り上げたノリ子さんは、まるでボクサーが相手のパンチをよけるように右腕で顔面を防御し、身体を左に振り再現しました。
「ノリ子ちゃんは反射神経抜群だからねぇ~」
顔をほころばせた雅子ママは、ノリ子さんの鋭い動作を惚れ惚れと見ています。

「サッとかわしたんだけど、肘から血がタラリって」
「わたし、スイッチ入っちゃって、ナイフを叩き落として、そいつの右腕をバキって……」
「折ったんですか?」
「知らないわ、腕抱えて泣きながら逃げてったから」
「わたしとユミはその店出入り禁止になっちゃうわ、夜間診療に駆け込むわ……その晩は散々だったわ」
「ユミも懲りて、しばらく大人しくしてたんだけれど、出掛けるところなくなって、つまんないって言うから、ママに相談したの。ママ、ここなら心配ないから遊びにおいでって言ってくれて」

「いろいろお話してね、人見知りもしなくて人当たりもいいのね、お客にしておくのはもったいないのよ」
「ノリ子ちゃんを姉のように慕っていて、ノリ子ちゃんの勧めもあって、もしよかったらここで働いてみるって水を向けたら、二つ返事でね。平日はお勤めしているって言うから、週末だけバイトに来てもらうことになったの」
「今まで遅刻も無断欠勤のなくて、根が明るい子だからお客様に可愛がられて、なんの問題もなくてね……」
「そのユミちゃんが、彼氏……それも隣の部屋に忍び込むような破廉恥な輩だとは、私とても信じられないの」

居ずまいを正した雅子ママは、真剣な面持ちで俺に向き合います。
「遠山さんよく聞いて。ユミちゃん、おとといから連絡が付かないの、誰が電話しても出ないの」
「あなたがそのお隣さんに襲われたのがおととい、その男が平然とユミちゃんの写真をあなたに見せたのが今夜、その男はユミちゃんが店にいないのを知っていながら、あなたを店によこした……」
「誰が聞いても妙な話よね」
「ちゃんと説明しないと帰さないよ」
ノリ子さんにすごまれ、恐怖に震え、腕を擦った俺は、もはや真実を話すしかありません。

「――信じられないかもしれませんが……お隣さん幽霊なんです」
「ユ・ウ・レ・イ?」
二人の声が見事にハモリます。
「アンタ!そんな子供だまし言って、ただじゃおかないよ!」
すごい剣幕で俺を睨みつける、雅子ママの雷が落ちました。
「嘘偽りなく、本当です、本当のことです」
「オマエいい根性してるな!それじゃ聞くぞ、その幽霊の名前は、名前を言えよ!」
ノリ子さんに吊し上げられ、絶対絶命のピンチです。
「お、お隣の幽霊の名前は――小早川さんです」

「ナニ!テメー、ユミを殺したのか!!」


つづく。


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