夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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オフ会 (二次会)

合コンの達人(上司、商品開発部主任)曰く
いいか萩原、一次会はプレゼンテーションの場だ。
顔見せ、探り合い、いかに自分をよく見せ、売り込むかが最大のポイントなのよ。
いいか萩原、二次会こそが主戦場。だから、酒も入って砕けた雰囲気を壊さずに、いかにして二次会に持ち込むかに、
男の技量が問われるのよ。

二次会は絶対、カラオケ!
音デカイから、会話の距離は縮まる、薄暗いから、いい雰囲気になりやすいだろ?
萩原!ちゃんと聞いてる?
主任、俺、一刻もこの場から逃げ出したいです。でも、とても逃げ出せそうには…
どうしたら……
萩原、お前なに贅沢言ってやがる!
でも、形は女性ですけど全員オトコですよ。
ナニ!オトコだと!――ご愁傷さま……
しゅ、主任!逃げるな!



女三人寄れば姦しい」とはよく言ったものだ。
二次会も問題なく(俺以外は)決まり、ドルチェを頬張る、三人娘の姦しいこと……。
食後の満ち足りた雰囲気を壊す、すべての会話に感嘆詞がついた、おなじみ女子たちの会話。

同じ趣味の者同士共感することが多いせいか、テンション高く優子が話しかけると、そのテンションに合わせて、
ヨシリン、サトミまでもテンションを高めている。
それが高じて、会話は天井知らずのハイテンションになっていった。
大好物のティラミスをじっくりと味わいたいの!俺まで女言葉になってしまった……。
口惜しそうな、お仲間石田に見送られ、俺はレストラン伏魔殿を抜け出せた。
女装子御一行様は、足取りも軽く歌舞伎町に繰り出して行く。皆さん、ハロウィーンにはまだ早いですよ……。

『一難去ってまた一難』
『郷に入っては郷に従え』
『朱に交われば赤くなる』
『背水の陣』
『毒を食らわば皿まで』
俺の頭の中で、故事ことわざが渦巻いていた。
『朱に交われば……青くなる』こうなったら『背水の逆転劇』、学生時代のコンパのノリで、凌ぐしかあるまい。
もうどうなっても知らんから……ボク。


「本日はカラオケ屋敷に、にぎにぎしいご来店、誠にありがとうございマッスル!マッスル!」
「マッスル!!マッスル!!」
三人ともハイテンションを引きずっていた。みなさん、完全に男のノリですよ。
「司会進行は、毎朝メンズビオレで洗顔している、斜向井オサムでございます」
「オサムちゃん、私も使てる!」優子の声に一同爆笑!
「アハハ、ありがとうゴザイマス。社長に代わりお礼申し上げます」
「では早速、トップバッター、わたくしオサムが、歌いますは、みなさまお馴染み、郷ひろみのデビュー曲『男の子女の子』
元気よくいきマッスル!」
『郷に入っては郷ひろみ』でしょ。

♪君たち女の子、それとも男の子、ヘイヘイヘイ ヘイヘイヘイ
おいで遊ぼう~僕らの世界へ 走って行こう
幸福さがすのは まかせてほしいのさ ヘイヘイヘイ ヘイヘイヘイ
夢があふれる いちどの人生 だいじな時間~

「郷ひろみにつづいて、なんと聖子松田!意味深でございます。歌うは優子さん 
曲は『チェリーブラッサム』よろしくお願いしマス!」

♪何もかもも目覚めてく 新しい私
走り出した愛は ケンジへとつづいてる
自由な色 自由な愛 描いてゆく二人で~

「イエーイ!拍手~」
デキル女のぶりっ子、歌詞を変えるもなかなかのもんじゃないの。優子君、お父ちゃん見直した。ウンウン。

「オット、途切れなく続くイントロビート!松田聖子とアイドルの双璧、明菜中森ではア~リマセンカ。
歌うはヨシリンさん、『少女A』よろしくお願いしマス!アキナ―!」
さすがカラオケ慣れしているヨシリン、松田聖子に対抗して、中森明菜をさっさと予約していた。

♪上目遣いに盗んで見ている ケンジの視線がまぶしいわ
思わせぶりに唇ぬらし
きっかけぐらいはこっちでつくってあげる
いわゆる普通の27歳だわ
男の娘のこと 知らなすぎるあなた
変わっているのは しかたないけれど
似たようなこと 誰でもしているのよ
じれったい じれったい
何歳にみえても 私オトコでも
じれったい じれったい
私は私よ 関係ないわ
特別じゃない どこでもいるわ
わ・た・し女装子Y~

オドロイタ。オドロイタヨ~ヨシリンまで替え歌で攻めてきた。
でもヨシリン、普通じゃありませんよ。どこにでもいたら、大変だゼ!


二人に先越され、出遅れたサトミは選曲に悩んでいた。
聖子、明菜、この流れを止めるわけにはいかんでしょうに……サトミ、アイドル路線で行けよ。
眉根を寄せ真剣にリモコンと格闘するサトミが見ていられなかった。
サトミちゃん、そんな怖い顔しちゃ、せっかくのメイクが台無しですよ。

しょうがねえ、助け舟を出してやるから。サトミ、覚えているか?
コンパで大受けした曲を俺はチョイスして、サトミの脇腹を肘で突いた。
曲名を見た途端、サトミの顔がパッと華やいだ。嬉しそうに何度も小首で頷き、ウインクしやがった。
思い出したか?お前荻野目洋子になり切って、踊ったあの夜のこと。
アンコールまでさせられてよ。お前その頃から、その気があったんだな……上手いわけだゼ。

「さあ~お次はサトミ、伝説の卒業コンパを思いだして歌います。『ダンシング・ヒーロー』荻野目洋子、レッツ、ダンス!」
イントロが流れ、俺はサトミの後ろに飛び出し、二人で何度も練習して完コピーした振り付けを披露した。
サトミも身体が覚えていたのだろう、曲に合わせ難なくステップを踏んでいる。サトミ、ヤルゼ!

♪愛してるよなんて、誘ってもくれない
新宿のネオンが素敵な夜よ
今夜だけでも シンデレラボーイ
ドゥ ユウ ウォナ ダンス トゥナイト!
ロマンティックをさらって
ドゥ ユウ ウォナ ホールド ミイ タイト!
ちょっと変わった シンデレラボーイ
ドゥ ユウ ウォナ ダンス トゥナイト!

「ゴーゴー、レッツゴー、レッツゴー サトミ!」
シンデレラボーイかよ、早く12時を回ってほしいね。


「楽しい!二人息もピッタリね。相思相愛なのね。ちょっと妬けちゃう」
唇を尖らせ、拗ねた優子のいじらしい素振り……そうゆうの男は弱いのよ。
「ケンジ君、私とデュエットして」
「ええヨロコンデ」
「何がいい?」
「優子さんにおまかせ、何でも」
「それじゃ、ワインディング・ロード」
ゲッ!そんな難しいの、歌わせるのかよ……。
「オッケーです。優子さんが綾香で――僕が……オフクロさん?」
「それは森進一」
「じゃ、タマブクロ?」
「それは筋太郎!」
「エヘヘ失礼しました。では、コブクロで。優子さんノリいいですね」

♪曲がりくねった 道のさきに 
待っている幾つもの小さな光
まだ遠くて見えなくても
一歩ずつ それだけを信じていこう
全てを愛せなくても ありのままの心で
なにかを一つだけ 愛し続けている人~

二本のマイクスタンドで向かい合い、優子の歌声にハモリを効かせた。
両手を広げ、全身でリズムを取り、気持ちよさそうに熱唱する優子。
『毒を食らわば優子まで』
優子に乗せられた俺は黒田俊介を気取った。ちくしょー、グラサン持ってくればよかったゼ。
サトミちゃん、会社の宴会で鍛えられた俺の実力、思い知ったか!ワハハ。

上手く歌え終えたと、満足そうに顔をほころばせた優子に手を引かれ、並んで腰を下ろした。
優子の左手が何気なく、俺の腿にそっと置かれ、優子のつけている香水の香りが俺を惑わした。
成人男子として当り前の行為、優子の手をやさしく握ってしまいそうな衝動を抑え込んだ。
その瞬間、俺は「夜間飛行」という香水の名の意味を知った気がした。
危うく墜落しそうだったゼ。アブネ~



「ケンジ君、私とも歌ってピョン!」
優子の毒爪から救ってくれた、いとしの夏目三久からのリクエスト。お応えいたしますとも。
「ラブ フォーエバー歌える?」
「加藤ミリヤですね?お任せください!」
鼻の下をのばしウキウキする俺に、サトミの冷ややかな視線が刺さった。
サトミちゃん、ボク勘違いしてもいいよね?エヘヘ。

♪あなたに出会えてよかった
切ないけれどよかった
ひとりの夜もそばにいてくれた
世界にたったひとりの
あなたに出会えてよかった
あなたがいなければ何の価値もない
世界中でひとり君だけを信じている
あなたに出会えてよかった~

小柄なヨシリンと肩を並べただけで、嗚呼、勘違いの恋の予感!ヨシリン、
あなたに出会えてよかったですよ。
優子とヨシリンに挟まれ、二人のご要望に応え、しな垂れる二人の肩に腕を回し、
シートで脚を組むニヤケタ俺をサトミはスマホに撮った。
サトミ、その写真、俺への脅しのネタに使うじゃないだろうな?


優子がクリスタル・ケイの『恋におちたら』を、俺を指さしながら軽やかに歌い、
ヨシリンは、またまた優子に対抗するように、AIの『ストーリー』をしっとり歌い上げ、ラスト一曲となった。
オフ会に招待してくれた優子とヨシリンへの感謝の意を込めて、俺はサトミとデュエットを選曲してマイクをサトミに手渡した。

「楽しかった宴も、そろそろお時間…忘れることのない(絶対に!)
オフ会に、優子さん、ヨシリンさんに誘ってもらい、感謝しています」
「最後に俺とサトミが、二人に歌をプレゼントしたいと思います。この歌も、学生時代、二人でよくデュエットしました。
『夏の終わりのハーモニー』――聞いてください」

♪今日のささやきと 昨日の争う声が
二人だけの恋のハーモニー
夢もあこがれも かなり違ってるけど
それがケンジとサトミのハーモニー
夜空をたださまようだけ
誰よりもあなたが好きだから
ステキな夢あこがれを
いつまでも ずっと忘れずに

肩を急に震わせたサトミは、声を詰まらせた。
上を向いたサトミの瞳から溢れた涙が頬に流れ、スポットライトに光った。
昨日の二人の言い争いを思い出したのだろうか……サトミの涙声は止まらなかった。
愁いを帯びた間奏のギターフレーズが俺の胸を震わせる。
泣くなサトミ、俺までヤバクなるだろ……。

♪今夜のお別れに 最後の二人の歌は
今日の夜を飾るハーモニー
夜空をたださまようだけ 星屑のあいだをゆれながら
二人の夢あこがれを
いつまでも ずっと思い出に
二人の夢 あこがれを
いつまでも ずっと忘れずに……。

化粧をぐじゃぐじゃにしたサトミは嗚咽を堪え、どうにか最後まで歌うことができた。
「サトミ、ずっと忘れないぜ」――お前みたいな変な奴。
「――ケンちゃん……」
俺はサトミの崩れそうな細い肩をそっと抱いた。
腕の中の震えるサトミは小さく、なぜか柔らかだった。
握り合った手を高く上げ、優子とヨシリンに深々と頭を下げた。
舞台終了の拍手は鳴り止まなかった。


サトミの涙は、優子、ヨシリンにも伝染し、二人とも潤んだ瞳をハンカチで押さえていた。
「もう、いやだ。ケンちゃん泣かせ上手……私まで泣いちゃうじゃないの。
ヨシリンだって、見てごらんなさいよ、目、真っ赤にして……」
年上の優子は最後まで強がりを見せていたが、泣き顔は隠しようがなかった。

三人娘の化粧直しに時間が取られ、延長料金を支払った俺たちは、夕暮れの歌舞伎町を後にした。
新宿の空には星屑の瞬きはなかったが、街のネオンは、華やかな三人娘の夢とあこがれを、ずっと忘れることはない。

俺とサトミの今夜の発展を冷やかす二人に見送られ、俺はタクシーを拾い、アパートに向かった。
緊張が解け、虚脱感で、俺もサトミも口を開くのも億劫だった。
部屋に入るや、サトミを抱きしめ押し倒し、勝負パンツを見ることは勿論ない。
二人で.舞台の幕を下ろし、着替え終えた俺たちは、本来の学生時代の親友関係に戻った。
サトミも俺も敢えてオフ会の事には触れなかったが、お互いの満ち足りた顔を見れば、
どうにか無事に終えた気分は同じだった。俺は聡の笑顔を見て、ちょっと幸せな気持ちがした。

翌日、聡を駅に送りがてら立ち寄った雑貨屋で、俺はプーさんの絵の付いた化粧ポーチを、
水着の代わりだと言って、聡にプレゼントした。
聡は、一瞬戸惑う表情を浮かべたが、俺とサトミの仲が発展したことに気づき、「大切にする」と嬉しそうにカバンに仕舞った。



こうして、俺の貴重なオフ会体験は終わった。
彼女たち女装子の世界は、普通の男女の世界と変わることはなかった。
男女で交わす普通の会話と自然な色気、俺が今まで経験した合コンと変わりなかった。
しかし、その域に達するには並大抵の努力、人一倍の情熱なくしては、達成できない。
実物の優子、ヨシリン、サトミと会い、彼女たちの振る舞いに、その一端を垣間見る思いがした。
いかに女性に見えるか否か……。
男の執念?を燃やし、高いハードルを飛び越える。彼女たちの潔い生き方は、,眩しく羨ましかった。


季節が移り、サトミから優子、ヨシリン、石田!を含めた女装子忘年会に誘うメールが届いた。
参加の旨を返信したその日、商品開発部に所属する俺は、「新食感!オネエ味チョコ」とネーミングした、
強いミントのゴツゴツした金平糖を、甘いミルクチョコボールで隠した商品をプレゼンテーションした。
レジメを見た部員、誰もが引いたが、件の主任には大いにウケ、ネーミングには一考の余地有りとしながらも、
開発商品のひとつとして承認された。
上手くいけば、来年の今頃、店頭に並ぶかもしれない。


終わり。


※古いお話にも拍手をいただき、感謝いたします。

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