夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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オフ会 (伏魔殿)

連休の中央総武線は空いて俺は内心ほっとした。
それでも向かいの端に座っていた女子が、女の直感だろうか、何気ない素振りでサトミを疑うような視線に気づき、
俺はさり気なく咳払いした。

サトミは座席に座るやメールを打ち始め、俺はスマホの画面を横目で覗いた。
「優子さんにメール送っとくね。ただいま東京に到着。迎えに来ていたK君と会いました。
これから二人で新宿へ向かいます―送信!」
女子サトミになりきった聡は、慣れた口調で女言葉を操った。
「聡、いやサトミ、東京に着いたって、どういうこと?」
「ケンちゃん鈍いね、昨日東京に来て、ケンちゃんの部屋に泊まったなんて言ったら、変な誤解を生むよ。
――話がややこしくなるもん」
「そ、そうだな、さすがだぜ」

オフ会の場所が新宿だとはきいていたが、まさか二丁目ではあるまいな……その筋の聖地として有名だが、
もちろん足を踏み入れたことはない。
偶然会社の知り合いに出会うことはなかろうが、不安がよぎった。
「新宿って、やっぱり二丁目か?」
「ううん違うよ。優子さんが贔屓にしている所だって――もう一度確認するね」


新宿は行き交う人の多さは普段と変わりなかった。
スマホ片手に颯爽と歩くサトミは、普通の女子として人込みにまぎれ、誰も振り返る者はいなかった。
サトミの度胸のよさに比べ、小心者の俺は、無理やり連れ出された犬のようにキョロキョロ見回し、
サトミご主人様にリードを引っ張られ、キャインと鳴きまねしてみた。

大ガード交差点を渡り、西武新宿駅に程近い横丁を曲がり、サトミは看板を指さした。
『Trattoria・橘』
さりげなくランチメニューが飾り台に置かれ、カジュアルな雰囲気のイタリアンレストランだった。
サトミと同じ趣味の者が集まる伏魔殿を想像して、身構えていた俺は拍子抜けした。

「サトミ、写真撮ってやろうか?」
約束の時間に間に合ったことを知った俺は、行く先々でブログに載せる写真を撮っているサトミを察してきいてみた。
「やめとく。ブログでオフ会の会場は新宿の某所にするつもり――秘密ってこともないけど、
もしレストランに迷惑かけると困る」
思わぬサトミの気遣いに感心した。思い出せば、大学時代の聡は誰にでも気遣いを見せるイイ奴だった……。
いや、俺以外にはイイ奴だったのだ。今回の聡の俺への仕打ち、気遣いの微塵も感じられん!

入り口に立った俺たちに歩み寄った、お約束の黒色の長いエプロンを腰に巻いた、
男の俺から見ても長髪のイケメンのカメリエーレ(会社の女子に教わった)に、
予約したタチバナユウコの連れだとサトミは告げた。
ナニ!タチバナユウコだと!――レストランの名前は『トラットリア・橘』、ハンドルネームだが、
優子の苗字が同じタチバナ……どういう繋がりがあるのか、それともただの偶然か。
優子のブログには「橘」の文字は見当たらなかったが……

「お待ちしておりました」と明るい口調のカメリエーレが、一瞬値踏みするような視線を向けたのを俺は見逃さなかった。
ここは優子が贔屓にしているところだとサトミは言っていた。
優子は常連客の一人に違いない。ということは、彼は馴染みの優子が女装子だと知っているはずだ。
その繋がりで、サトミも女装子だと分かっているのか……まあ、よく見りゃわかるわな。
女装子のオフ会にノコノコついて来た俺は、彼の目にどう映ったのか気になったが、
度量の広い男を演じる俺は、彼に微笑み替えしてやった。
彼の表情が和らいだのはどういう意味だ。憐れんでいるのか、それとも……。


サトミと俺は、カメリエーレに従い階段を上がった。
1階は、数組のカップルを除き、ほとんどが女性の集まりで埋まり賑やかだった。
2階の個室のように仕切られたボックス席も女性同士の先客がいて、
女性に人気の高いレストランであることは一目で分かった。俺たちは一番奥の席に案内された。

すでに優子とヨシリンは来ていた。
「あっ、サトミちゃん!」
スマホから顔を上げたヨシリンが声を上げ、つられて優子もスマホから目を離した。
「優子さん、ヨシリンさん、はじめまして、おそくなりました」
立ち上がった二人は、サトミと両手を握り合い破顔させ、女子だけが許されるスキンシップの挨拶が行われた。

手前の白の半袖ニットにタイトな黒のスカート、髪の長いのが優子で、斜め分けしたショートヘア、
小さな襟の淡いピンクのブラウス、ココア色のスカートがヨシリンだとすぐに分かった。
優子とヨシリンは、すでに面識があることは優子のブログで俺は知っていた。
予習しといてよかったぜ。

サトミは俺の左腕をそっと掴んだ。
「紹介しますね、彼がK君です」
「初めまして、ケンジです。今日はお招きいただき、ありがとうございます。折角の集まりにお邪魔して、
ご迷惑ではなかったですか?」
「迷惑なんて、ちっとも。優子と申します」
「はじめまして、ヨシリンです。サトミちゃんにお願いして無理やり誘っちゃって――でもお会いできて嬉しいです」
二人は容姿だけではなく、驚いたことに声音まで変えていた。
実物の優子は大人の女性そのものだった。ハッキリとした目鼻立ち、アン・ハサウェイに似ていると言ったら
褒めすぎだな……やめとこ。
デキル女性の知的なオーラを振り撒き、近寄り難い雰囲気すら感じた。

「サトミちゃんが自慢していたけど、ちょっと向井理に似ていますね」
小柄なヨシリンのキュートな笑顔が、眩シ~イ!やっぱり夏目三久に似ている!コマッタゼ!
「アハハ、よく言われます。オサムはオサムでも、ザ・ぼんちのオサムちゃんに似ているってね」
優子は笑ったが、ヨシリンにはギャグが通じなかったようだ。やはり優子は俺たちより、かなり年上のようだ。
聡、お前本当に適当なこと言ってくれたな。オボエトケヨ!


優子の隣にサトミを座らせ、俺はテーブルの端に腰を下ろした。
気心知れた(同じ趣味だから当たり前だ)三人は、すぐに打ち解け、お互いのコーデを褒め合い、
それを理解ある俺は温かい眼差しを作り見守った。
テーブルに前菜とスパークリングワインが用意され、小指を立て、細いグラスを品よく手にした優子に、
俺は乾杯を指名された。
「では僭越ですが、皆様の美容と健康にカンパイ!」
すぐに気の利くホスト役に転じた俺は、グラスを掲げた、三人娘をサトミのスマホで記念撮影した。

「ケンジ君はサトミちゃんと、大学の友人だったのよね?」
「ええ、同じゼミのご学友でした。ご学友なんて高貴な関係じゃないけど、アハハ」
「サトミちゃんはその頃から……」
優子の言わんとすることはすぐ分かった。その頃から俺の前で女装をしていたのかと。
隣のサトミの緊張が俺に伝わった。
「サトミとはごく当たり前の友達です。ゼミの仲間からのウケはイマイチでしたが、ギャグばっかり言い合って
ふざけていましたよ」
俺は先程の滑ったギャグの言い訳を含めて言った。

「――大学三年の学祭で、女装コンテストがあったんです」
「サトミちゃん出たの?」
「いえ、サトミと俺は客席で見ていました。優勝したのは、誰もが納得した二年生でしたが、
帰り際サトミは僕の方が絶対上だって、出場したら優勝したって。
いつもの冗談なのか、本気なのか分からなくて、相手にしなかったら、いつになくムキになって
――次の日、はじめてサトミの画像を見せられました……」

「私ね、昔も今もケンジ君みたいなリアルな友達はいないんだけど、どう思った?」
身を乗り出した優子の鋭い問い掛けに、ヨシリンもそれに加勢してきやがった。
「私も、すごく知りたい!」
「――納得させられた、いえ納得しました。口には出しませんでしたけど、ヤラレタって思いましたよ。
優勝した奴より上でした」
「もちろん戸惑いましたが、相当な覚悟で俺に見せたのだと思いました。サトミの真剣さが分かりました
――サトミは何に対しても真剣に取り組むのを知っていましたから……」
サトミは神妙に俯き、指先を弄って気恥ずかしさを誤魔化していた。

「だから俺は、変な意味ではありませんが、サトミの気持ちを受け入れました。
そうゆう趣味の友人がいてもかまわないって思いました」
「今日、卒業以来、しばらくぶりにサトミと会って、正直驚いています――レベルアップしたと……」
俺は思わせぶりな言葉で、二人が関心あるであろう、サトミと俺との発展に、さりげなく触れることを忘れなかった。
二人は黙って聞いていた。

「優子さん、ヨシリンさんもそうでしょうけれど、サトミの情熱とエネルギーは大変なものだと、俺なりに理解しています。
誰にも真似出来るのものではありません」
俺は優子、ヨシリンの目を逸らさず、慎重に言葉を選び、どうにか優等生的答えを出した。
俺の答えに安堵したのか、顔を上げたサトミは俺に向かって、ニタッと笑った。
聡、この貸しはきっちり返してもらうからな!

俺とサトミの関係、さらには俺の女装への理解が二人に伝わったのか、場の雰囲気が一気にほぐれた気がした。
三人は運ばれたリゾットを写真に撮り、スマホを手渡され、カメラマン役を仰せつかった俺は、微笑む彼女たちを撮った。

俺に向ける、優子とヨシリンの迷いのない表情は、気持ちのいいものだった。
その自信はどこから生まれるのか……声まで変えてしまう、長いキャリアは言うまでもないだろうが、
性別に関係なく魅力的な人間性が醸しだされているような気がした。
彼女たちは大人なのだ!


優子にまかせたメインディッシュに合わせた、ワインが抜かれ、互いに酌をし合った。
俺は会社の先輩からアドバイスを受けた、合コンNG行為に気を付け、三人娘の会話の聞き役にまわっていたが、
気配りを見せた(見せんでヨイ!)ヨシリンは俺を会話の輪に引きずり込んだ。

「ケンジ君、私たちのブログ見たことあります?」
「――いえ、まだ……」
まさか、昨夜はじめて見ましたとは言えんだろうが……。
「でも、こうして魅力あるお二人に、リアルにお会いできたから……」

「そうそう、ヨシリン、ブログでビキニになっていたよね?スタイルよくて羨ましかった」
ヨシリン存じておりますよ。見惚れてしまいましたよ。エヘヘ。
「もう、優子さんたら。あれね、渋谷でカワイイの見つけちゃって、どうしても着てみたくなっちゃって。
スタイル抜群の優子さんなら、すごく似合うと思う」
「だめよ~私最近おなか出てきちゃって、何着ても似合わなくなっちゃって。サトミは水着持ってる?」
「持ってないです。欲しいけど、自信がなくて……」
「サトミちゃん、大丈夫よ。一度着ると自信つくから――ケンジ君、プレゼントしてあげなさいよ」
アルコールの勢いか、ヨシリンはとんでもないことを言い出した。俺とサトミは顔を見合わせ、引きつる頬を作り笑いでごまかした。
「ヨシリンさん、それじゃ来年の夏にでも」
俺は照れくさそうに頭を掻き、場の雰囲気を壊さないようにつとめた。
サトミは嬉しそうにはにかみやがった。聡、なに勘違いしている。
プレゼントはし・な・い!お前のビキニ姿など、絶対見たくないゾ!



「優子君、いらっしゃい!」
「あっ、お父ちゃん」
「お、お父ちゃん!?」
ヨシリン俺とサトミ、三人は同時に頓狂な声を上げた。にこやかな初老のシェフが立っていた。
「ヨシリンも、ここはじめてだったよね。オーナーシェフの橘さん」
「ご来店いただきありがとうございます。料理はお口に合いましたか?」
「おいしくいただいています。ご繁盛な名店に、優子さんにお誘いいただき、感謝しています。優子さん、お父さんて?」
優子とシェフが同じ苗字の橘を名乗り、やはり身内、それも親子関係なのか……俺は率直な疑問をぶつけてみた。
ふくれ面でグラスを口にした優子に代わって答えたのはシェフだった。

「優子君は昔から私のことを、お父ちゃんと呼んでいましてね。おかげさまで、開店して今年で11年になりますが、
優子君は、開店当初から大学院を卒業するまで手伝だってくれましてね」
「ヤダーモウ、お父ちゃん歳がバレル」
「ごめん、ごめん。優子君には大変世話になりましてね、若いのに気の回るカメリエーラで、
お店のメニュー書き、ホームページを作ってくれたのは優子君です。今も更新をお願いしています」

橘さんは優子のことをカメリエーラ(女性の給仕のこと会社の女子の豆知識より)と言ったことが不思議だった。
当然雇い主なら、優子の性別は当時から知っているだろうが――疑問がまた一つ増えた。
「お父ちゃん、さっさと厨房に戻りなさいよ」
「余計なおしゃべりしちゃって。チーズをお持ちしましたから、お好きなの、お取りしますので、石田にお申し付けください。
ごゆっくりしていってください」
神妙にシェフの後ろに控えていた、俺たちを席に案内したロン毛のイケメンがチーズをのせた台車をテーブル脇に止めた。


「石田!お前がどうしてもって言うから、ここでオフ会開いたのに。あれだけお父ちゃんには内緒にしておけと言ったのに、
お前しゃべったな」
ドスの効いた優子の男声に一同ビックリ!

「僕しゃべっていません。有馬マネージャーがしゃべったんです」
「お前、有馬さん今日は公休だと言ったよな。だから今日に決めたのに」
「はい、予定表にちゃんと書いてありました。ありましたが…なぜか出勤してきまして、ハハハ……」
「ハハハじゃねえ!まったくしょうがないな…お父ちゃん二人も女装だと知ってるのか?」
「いいえ、オーナーもマネージャーも気付いていません。優子さんは女性と男性の方といらしていると、
マネージャーは言っていましたから」
サトミのバカは、男だと勘づかれなかったのが、よほど嬉しいのか、俺にガッツポーズしやがった。

「やだけど紹介するは、こいつ石田。ここで働く前、この先の居酒屋でバイトしてて、
お父ちゃんと有馬さんと飲みに行ったことがあってさ――こいつ私にずっとガン飛ばすから、ちょっと脅かしたら、
もしかして優子さんですか?って。私のブログの読者だって言うし、僕も同じ趣味なんですって。もうズッコケたわよ」
「石田です、よろしくス。サトミさんとヨシリンさんですよね?ブログ拝見してます。
お三人は僕の神です。お会いできてうれしいス」
もう一人お仲間登場!やはりここは伏魔殿だぜ。

「優子さん、橘さんは優子さんのことを優秀なカメリエーラ、女性給仕だったと呼んでいましたが、
その頃から今のような姿で……」
「そんなわけないじゃないの、男性の姿で働いていましたよ。お父ちゃん、私と三人がどういう関係か分からないから、
カメリエーラなんて言って煙に巻いたのよ」

「お父ちゃんにはじめて見せたのは、お店を辞めてしばらくしてから。お父ちゃん大ウケで、面白がって出入りを許されたのよ。
でも面倒かけると困るから、遊びに来るのは、いつも閉店間際ね――今日は特別。
石田がどうしても、ヨシリンとサトミに会いたいって言うし、オフ会の雰囲気が知りたいって拗ねやがって」

「他の所も考えたんだけど、こいつの女装は、まだ連れ出せるレベルじゃないのよ。
今日のオフ会は、私とヨシリンが、ぜひケンジ君に会いたいから開いたんで、
男の形の石田を連れていくわけにもいかないからさ……」
そうか、案の定今日のオフ会の目的は、俺を誘い出し、サトミとの仲を発展させるためか。
上等だぜ!

「でも、どうしてお父ちゃんて、呼ぶの?」
ヨシリンは俺の疑問を代弁してくれた。
「橘さんの性格、浪花節でさ、本当にスタッフの面倒見がいいのよ。私もいろいろ目を掛けてもらったし、
この石田だって、居酒屋リストラされて困ってたら、すぐに橘さん拾ってくれて」

「でね、橘さんカラオケ好きでさ、スタッフ連れて歌いに行ったんだけど、お洒落なイタリアンシェフのイメージに似合わない、
大のド演歌好きでさ、みんなドン引きしちゃって……。
可哀想になったから,「ヨッ、お父ちゃん!」って合いの手入れたら、橘さん大喜びして、顔くしゃくしゃにしちゃって。
それから私、お父ちゃんと呼ぶことにしたの」

「そうだ!二次会カラオケ行こう!」
ナニ!二次会、カラオケだと!
「賛成!行きたいでスウ~私いつも独りカラオケだから」
大喜びするヨシリンをしり目に、俺の引きつる顔は、もう修復不能だった。力なく笑うしかなかった。
「僕も行きたいス」
「お前は仕事だろが!」
チーズを切り分ける石田は、残念そうに唇を尖らせていた。
「石田、チーズはお父ちゃんのサービスだろうけど、食後のレモンチェッロはお前が奢れよ!」

「ヴァ ベーネ……」



怒涛の二次会につづく。


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