夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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オフ会 (後編)

女装姿ではじめて遠出した疲れと、俺の説得に成功して安心したのか、聡はアパートに戻ってくるなり、
敷いてやった客用布団に倒れ込み、そのまま爆睡してしまった。
酔った勢いで「任せておけ」と大口を叩いたものの、落ち着かなかった。
オフ会で誰とも会話がかみ合わず、困惑するであろう聡に、親友として恥をかかせるわけにはいかない。
俺は居間で独りパソコンを立ち上げ、聡のブログをもう一度見直した。

ブログをはじめた頃から聡の女装姿は、本人も豪語するだけあって、ド素人の俺が見ても見苦しいものではなかった。
月日を重ねる程、磨きがかかり、撮影技術の向上を差し引いても、本物の女に見間違うような変貌を遂げていて驚いた。
記事の内容はデタラメではなかったが、よくもこんなに適当なことを俺に内緒で書いていたものだと呆れた。
大学を卒業し、お互い住む所も生活も変わった現在も、女装子サトミと不思議な関係が続いていることになっている。

サトミの特殊な趣味の理解者として登場する俺の言葉と態度が、読みようによっては、
俺がサトミに仄かな想いを抱いているようにも受け取れ焦った。
聡は何をトチ狂ったのか、「この頃K君の夢を見ます。忙しく遅くまで残業した夜は、必ず夢にK君が現れます。
K君と離れてサトミは、あらためてK君の優しさを実感しています」などとキモイことを平然と書いていやがる。
もしこれが付き合って間がない女のブログだったら、男として悪い気はしないだろうが……。

確かに二人の仲が、特別な関係に発展したことを窺わせる記事はどこにもなかった。
しかし何かのきっかけで、関係が新展開を迎えるような予感をブログの読者は感じてしまうのだろう。
ブロとも優子とヨシリンが、関係を羨みながらサトミの背中を押すようなコメントを寄せていて、
サトミと二人のやり取りは、会社にいる女子たちの会話と同じだった。
まさか、オフ会の真の目的は、俺とサトミの仲を取り持つことなのか……明日は気が抜けん!


「ビジネスの基本は相手の情報収集から」の鉄側に従い、リンク先の優子とヨシリンのブログに順番にアクセスした。
「ゲランの香水のブログと勘違いしていらっしゃった皆様、ごめんなさい」とブログトップに大きな文字で
お詫びが書き込まれた優子のブログは『夜間飛行の香り』だった。
優子はその『夜間飛行』という名のスパイシー?な香水が似合う女性を目指しているのだとか……。
香水の知識などまったくない俺には、悲しいかなイメージが全く湧かなかった。

先入観を持って見ても、優子は女性にしか見えなかった。
毛先が柔らかくカールしたなロングヘアが似合う、目鼻立ちがはっきりしたシャープな顔立ち、
長身でスレンダーな体形から真直ぐに伸びた長い脚、優子が最も気にかけているようだ。
モノトーンの衣装をさりげなく着こなし、ポーズする画像から想像すると、優子は俗にいうデキル女性を
目標にしているのは確かだ。
過去記事一覧をみると、女装キャリアは長く、「優子様」と慕う女装子が大勢いて、彼女たちにお姉さん的アドバイスを残している。年上なのは間違いなさそうだ。
ブログのアクセス数を見て驚いた!優子のファンがいかに多いのか……。
優子が仕切り役を務めた、女子会を思わせるオフ会の記事が幾つもあり、場慣れしている様子が窺えた。

一方『ヨシリンの小部屋』の主ヨシリンは、ショートヘアが似合う、言葉の使い方に疑問が残るが、
ボーイッシュ?な姿をしている。
雰囲気が俺の好みの夏目三久に似ていて、マウスを握る指が俺を急かせた。
二ヶ月前の記事では大胆な水着姿を披露していて、悔しいが男の本能に逆らえず、
画像を何度も拡大して見惚れてしまった。
外出も慣れた様子で、渋谷、原宿、新宿と繁華街に違和感なく溶け込み、洋服、化粧品、スイーツと、
ショップで普通の女子のように買い物するヨシリン。あなたは本当に男デスカ?
ヨシリンのアクセス数も優子に負けていなかった。
彼女たちの人気の高さを思い知らされた。でも一体誰が彼女たちのブログを見ているのか……。

社会人になり、同僚や取引先の女子社員たちに誘われ、飲み会の雰囲気は分かっているつもりだ。
でも、でもよ、女の形はしているが、れっきとした男三人との会食。
どうすりゃいいのさ、思案橋……ズキズキ痛みだしたこめかみを押さえ、布団に潜り込んだ。



悔しいくらいの爽やかな秋晴れだった。
すでに起きていた聡はシャワーを浴びていた。
昨夜の疲れが残る重い体を引きずり洗面所に立った。
床に落ちている、丸まった女の下着とパンストを目にした俺は、いっぺんに眠気が覚めた。
もちろんこれは、男の聡が穿いていたものだと理解しながらも、男の劣情を刺激、いや勘違いさせるには十分だった。
見てはいけないものを見た複雑な気分だったが、何か言う気は失せていた。
今日一日、サトミのよき理解者を演じる俺は、男としての度量の広さを見せなければならない。
そう俺は男だ!――でもみんな男だよ……トホホ

長いシャワーの音が止み、スエット姿の男の恰好に戻った聡がバスタオルで頭を拭きながら出てきた。
「おはようス。賢司なんか疲れてねえ?」
憎たらしいまでの、すがすがしい表情を俺に向けやがった。
「ああ、とても疲れていますよ……」
「エヘヘ、賢司許せ。これもひとつの社会勉強だと思ってさ。なかなか経験できないことだぜ。
女装子だけのオフ会に招待されるなんて光栄だと思わなくちゃ」
ふざけた物言いに、もはや言い返す気力は残っていなかった。

「聡よ、お前が寝た後、三人のブログを見直したんだけど、一体どうゆう人種がお前たちのブログを見るのよ?」
「さすが賢司、ちゃんと予習してくれたか、サンクス!やっぱり君は頼りがいがある。
――僕と同じ趣味の人が見てくれているんだけど、純男も多いかな…」

「ナンダそのスミオって?」
「純な男と書いてスミオ。自分では女装はしないけど、女装子に興味や理解があって、女装子に恋愛感情を抱いているのもいる」
「ちょっと待て、そうするとお前に理解があるというK君とやらは純男か?」
「う~ん、大きく括れば純男のカテゴリーに入るだろうけど……」
「そうすると、優子とヨシリンは俺のことを純男と思っているのか?」
「彼女たちはどう思っているのか分からないけど――その気がないのに、賢司のことをすこしオーバーに書いてしまってさ、
反省しているよ。メンゴ!」
お道化た聡の反省は疑わしかった。

「でも賢司のことを書くと、ぐんとアクセス数が増えるんだぜ。それがちょっと嬉しくてね」
俺とサトミのプラトニック?な関係が、想像するだけでも恐ろしい方向に発展することを期待する輩が大勢いることに、
背筋が寒くなった。
「二人とも、賢司が下心アリアリの男だと思ってはいないのは確かだよ。そうじゃなきゃ、オフ会に誘うことはないと思うよ。
マチガイナイ」
喜んでいいのか、何が光栄なのか、いまひとつ分からなかったが、俺はコーヒーを淹れに台所に向かった。


聡はテーブルの上に化粧道具(聡はコスメだと言った)一式を並べ、立て掛けた鏡に向かい、
化粧(メイクだとのたまわった)を始めた。
それを興味津々で見詰める俺の視線が気になり、聡は苛立った表情を浮かべたが、
口喧嘩を避けたように何も言わなかった。

チューブの化粧品、いやコスメで肌の下地を整え、真剣な眼差しを鏡に近づけ、
立てた小指を震わせる神経質な指が細筆とペンシルを何度も持ち替えた。
その様子はこれから舞台に立つ役者のようにも見えた。
「聡よ、気になったんだが、普段から眉毛そんなに細くしているのか?」
「そうだよ。会社では衛生服とフードを被ってゴーグルするから、眉毛細くしても気付かれん」
聡は鏡から目を離さず言った。
「なるほど……」
「太い眉毛が似合う人ならいいんだけれど、イモトアヤコみたいになっちゃってさ。さすがにちょっとな。
――毎日少しずつ細くしてったから、誰も気づかないよ。まあ、面と向かって僕の顔見る奴もいないけど」
ほくそ笑んだ聡の顔は、目が大きくなり睫毛も長くなっていた。


ズラ(ウイッグと言えと怒る)を被り、ゆったりとしたチェック柄のワンピースに着替えた聡は、
秋のコーデ(コーディネートの略だそうだ)とぬかして、居間で胡坐をかいていた俺の前に立ち、
スカートの裾を左右に広げ、勘違いしたモデルのように小首を傾げた。
「賢司、どうよ?」
プッと噴出した俺は、すぐさま聡のギャグの効いたチュンリーの必殺技、見事な回し蹴りを食った。
大袈裟に床に倒れ込み、見上げた視線の先に、捲れたスカートからパンスト越しに白いレースの下着が透けて見えた。
「バカ!見るな」
聡は慌ててスカートの裾を直した。
「アハハ、聡、すごいパンツ穿いてる!」
「ウルサイ!サトミ迷ったけど、今日は勝負パンツ穿くことにした」
「し、し、勝負パンツだと?何の勝負だよ?相撲か、プロレスか?勝負パンツの意味知っているのか?」
「賢司、お前社会人になったら、ホントに頭固くなっちゃったな!」
「ブログのサトミは卒業以来、初めてK君と出掛ける設定なんだよ!」
「二人きりじゃないけど、何があるか分からんから、サトミの女心は揺れてるの!」
「もちろん何にもないけど、女子の隠れた身だしなみだぜ!」

サトミの剣幕にたじろぎ、気持ちまで女子になり切った真剣な聡を見て、俺は女装への偏見と勘違いを思い知らされた。
サトミたちは容姿、衣装を巧みに切り替えることに多大なエネルギーを費やし、理想とする女性像を体現するだけではなく、
その精神さえも置き換え、隙のないイメージプレイを楽しんでいるのだ。

聡はコスプレの一種だと言ってはいたが、アニメキャラクターを真似るコスプレとは別物なのだ。
そのことを深く理解したことになっている俺は、彼女たち以上に高度な立ち振る舞いを要求されているのだ。
聡が言っていた、下心アリアリの純男や、女性を見下すような男には興味がないのだ。
生半可な行動は彼女たちの儀礼に反するが、堅苦しい態度も彼女たちをシラケさせてしまうだろう。
それでもオフ会で起きるすべてのことに、勘違いしてはいけないと俺は肝に銘じた。


俺と聡の舞台の幕が上がる。
俺も華やかな舞台に相応しい、店員におだてられ、ありもしないデート用に買ったアローズのお洒落なスーツに着替えた。
洗面所の鏡の前でサトミと並んだ。
「サトミ、カワイイゼ」
「ケンちゃん、カッコイイヨ、ウフフ……」
「ヨッシャ!」
両手を握りしめ、気合を入れた俺たちは意気揚々と舞台に向かった。


最終話?につづく。


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