夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

夏休みの宿題

夜の帳が下りた静寂な部屋に佇むひとりの女性の姿。綺麗にセットした栗毛色の髪、夢見る瞳をクローゼットの鏡に向け、思わず漏れた甘い吐息が瑞々しい香りが漂う部屋の空気を震わせる。
自慢らしく見せつける純白のシフォンのキャミソールが揺れ、裾から伸びた細い脚に視線を落とした。上手く塗れたペティキュアに笑みがこぼれた。
憐憫の情けもなく、私の欲望のすべてを受け入れる女性との逢瀬。このとき、この瞬間、私は至福のときを迎えました。


好奇心。私はいつも好奇心にせっつかれていました。ピアスはもちろん、マニュキア、流行の服。女性に対し特別な憧憬を抱いては、そのなにひとつとして得られずにいる自分に苛々していました。
大学に入ったのを契機に、どうしても一人暮らしがしたかったのですが、通学は自宅から十分可能で、私は心の疼きに耐えるしかありませんでした。受験の束縛が外れ、生活環境が変わり、自由な時が増えるにつけ、願望は膨らむばかりで苛立っていました。
それではと、後期授業が始まるまでの夏休みの五日間、私は友人宅で、ありもしない夏休みのレポートの作成の為にと口実を作り、自宅から遠い都内の格安のウィークリーマンションを探し、予約を入れました。

それから一か月、春から伸ばした髪の色を少しずつ変え、眉毛を細く整え、毎夜ネットを徘徊しては、密かに必要な物のリストを作り、自分だけの世界の創造を準備していました。
指折り数えた念願の一人住まい、ほんの短い期間とはいえ、誰にも邪魔されない自由な居場所を手に入れ、感激もひとしおでした。



マンション近くの宅配便の営業所にネットで注文した物がすべて揃った二日目の晩、慌ただしく梱包を解いた私はベッドの上にそのすべてを並べ、ひとつひとつが発する妖しいオーラに溜息を吐き、心を奪われてしまいます。
はじめて女性用の下着を手にした、その瞬間、想像の中でこの下着が女性の股間に食い込むさまや、淫猥な仕草をする女を求めているのではないことを明瞭に自覚しました。
急いで全裸になり、バスルームに飛び込みました。女性用の石鹸の付いた剃刀で全身のムダ毛を処理し、封を切った乳液を掌にたらし、入念に肌の手入れを済ませました。
そして遂に私は変身を遂げました。願望する女性の全身を手に入れた悦びで、胸の震えが抑えられません。

カワイイヨ

天の声がクローゼットの鏡の中で緊張する女性に囁きます。声に促され、キャミソールの裾を少しだけたくし上げます。劣情を催す下着が目に飛び込み、私を魅了します。
脛をあがり、太腿を舐めるすべすべとした下着の悩ましい肌触り、心地よい拘束感は想像を超えるものです。 

キミミタイナカワイイコガ、ソンナHナパンティーヲハイテイルナンテ

鏡の中で、つるりとした脚が恥らうように擦り合わされ、女性の唇から、言葉にならない声だけが漏れます。

ウシロヲミセテゴラン

はにかみ頬を赤らめ、鏡にヒップを映してみました。ふたつの膨らみが小さな下着から今にもはみ出しそうになっています。
成熟した女性にしては、柔らかな曲線ではないにもかかわらず、自分の肉体が女性のものと少しも変わらないと感じます。

イヤラシイシタギヲハイテヨロコンデル、キミハホントウニ、インランナオンナダ

サワッテホシクテ、コンナパンツヲハイテイルノダロウ

ホラ、ホラ、ショウジキニイッテミロ

下卑た言葉で嬲られ、言いつけに従いヒップを掴みました。全身のたぎる血が下半身に音を立てて流れ込んでいきます。
鏡に突き出した零れんばかりの股間の膨らみは、薄い布でかろうじて抑え込まれています。

サワッテゴラン、カタクナッテイルダロ

キミガカワイイカラコンナニナッチャッタ

股間に置かれた白い指が、眩しく感じられます。ネイルを施した美しく磨かれた爪、振り払うことのなど出来ない魔力を持っています。私は思わず指先をキャンディーのように口に入れて夢中で舐めました。


キャミソールの裾を前歯で咥え、悩ましい喘ぎを殺すいじらしい下着姿。女性の手が屹立した股間を下着の上から撫でさすり、性感の昂ぶりが私を襲います。

マダガマンデキルダロ

私は激しく頭を振り、抑えきれない欲情を訴えます。

ショウガナイコダ

わななく女性の指が下着の淵から差し込まれ、激しく勃起した性器が摘み出されました。

モウコンナニヌレテイル

下腹に張りつきそうなほど反り返った性器が脈動して揺れています。震える柔らかな手が濡れた性器を包んでは扱き、女性の手の中で熱い塊が揺れ、女性の腰も揺れます。興奮で漏れ出た体液の淫靡な音が室温の上がった部屋を埋めていきます。

女の悦びに貪欲な女性はもう一方の手を滑らかな胸に滑らせ、貧弱な乳房を揉みたてます。男の愛撫を知らぬ小さな乳首はすでに尖り敏感に反応し、快楽の呻き声を漏らす女性の身体がびくんびくんと跳ねます。
女性は膝をがくがくとさせ、全身に波及する愉悦の波に必死で耐えています。

もういきたい、いきたい、いきたいです

ダメダ、マダダメダ!

いや、いや、もうがまんできないの

迫りくる快感の嵐に巻き込まれ、悲鳴を上げた女性は、激しい絶頂の飛沫をまき散らし膝が崩れました。冷たい床の上に全身を投げ出し、長く、あまりにも長い、経験したことのない女の悦びに全身を痙攣させました。
息が整い、掌に出した精液をみても、背徳の念はありませんでした。精を受け止めた掌は、間違えなく恋焦がれた淫蕩な女性のものでした。


遅く目覚めた三日目の昼下がり、私は持参した三脚にデジカメをセットし、私の欲望に忠実な女性の姿の撮影にはいりました。自宅に戻れば、変身できないうっぷんを、少しでも晴らすため、撮り溜めした画像を眺めるつもりでした。
大人の女性を演出する艶やかなレースの黒いランジェリー姿にいそいそと着替えました。
モニターのノートパソコンに映し出された妖艶な女性の姿に性感が煽られ、私を虜にさせます。

ホントウニキミハスケベナコダ、モウコウフンシテイル

チュールのビスチェから肌蹴た乳首、猫のように伸びをしては、ヒップの曲線を強調させ、ベッドの上であらん限りの嬌態や媚態を演じ、興奮した性器に指を絡めては蕩けた表情をレンズに向け、掌に隠し持ったリモコンのシャッターを何度も切ります。
モニターの画像を何度も見直し、透けた股間の黒々した陰毛が女性とは不釣り合いで気になり、私は後先の考えもなく、バスタオルを敷いたベッドの上で陰毛をすべて剃り落し、その一部始終をカメラに収めました。
無毛の性器は、想像する淫蕩な女性の肥大してしまった女性器の一部を思わせ、私はまたひとつ女性の体部を手に入れたことに満足しました。

その晩、洗顔と産毛剃りを念入りに済ませた私は、花びらの刺繍で縁取れれた淡いピンクのパンティーとお揃いのブラジャーを黒いTシャツとスリムなジーンズで隠し、夜の街に出かけました。私がどうしても実行したかった行動でした。
とても女装する勇気がなく、男とも女とも見える中性的な身なりですが、よく見れば、胸のささやかなふくらみと、下ろしたばかりの赤いスニーカーが女の記号を表し、勇気を出して冒険の一歩を踏み出しました。

陽が落ちても残暑が厳しい駅前の商店街を、歩き方に注意しながら散歩します。すれ違う人々は私のことなど気に留めることはありません。商店のウインドウに映る自分の姿を横目で眺めては、歩く姿をチェックし、羞恥心で前屈みになってしまう姿勢を正しては胸を張り、Tシャツの膨らみを意識し、平らな股間に、ほくそ笑む私。
もし誰かに声をかけられたら――あらぬ妄想が頭の隅をよぎります。
そして、スーパーマーケットで無言の買い物を済ませた私は、残っている宿題、水着撮影に想いを馳せ、帰路を急ぎました。



残暑見舞い申し上げます。例年にない厳しい暑さが身に堪え、更新が滞り申し訳ありません。
今回も相も変わらぬお話ですが、お付き合いいただければ嬉しい限りです。



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