夜のお伽噺

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レクターちゃん 6話


自分を一般的な、健康的な人間だと認めることは、なんだか自分をつまらなくさせるような気がしていました。それはあの年齢にはありがちな思いかもしれませんが、恐れ多くも芸術家のたまごを自認していた私は、或る種、非日常的なこと異質なことに特別なものを感じていました。
芸術がすべからく目指すものは美しさで、つねに絶対的な普遍の美を追い求めることが、芸術家の本懐かもしれません。完璧な女性像の造形美は、誰もがその美しさを認めるものですが、不均衡から生み出される不思議な造形美、不足の美に惹かれていました。そんな私の前に忽然と現れた、妖しくアンバランス少年・・・

自分の希求する世界の本質を紙の上に表現することが可能ならば、その世界を自分の意のままになし得ることになる。私は画像の少年との関係を妄想し甘美な世界に足を踏み入れていました。
すべての画像を正確に写し取っては少年の骨肉を身体の部位ごとに描きだし、自分の願望をデッサン人形にとらせた姿勢に嵌め込んでいきました。それは少年と私のセクシャルな体験でした。

しかし愚かな遊戯の枠からはみ出すことのないその体験も、湧き上がる欲望の歯止めにはなりえませんでした。
まともな恋愛経験もない私は、同性愛者ではないと自覚はしていましたが、少年の肌合い、体温、呼吸、そして興奮、そのすべてを直に触れ感じ取ることの欲求を抑えることができませんでした。
私は密かな想いを描きためたデッサン帳を、あの少年、阿川さんに見せる機会を探っていました。


その日がくることはわかっていました。

学祭の喧騒がまだ残るキャンパスを色づいた樹木が秋色に染めた晩秋の頃でした。
「やあ、藍澤君」
忘れることのない声に歩を止めた先に、笑みを浮かべた阿川さんが立っていました。
「あっ阿川さん、こんにちは。その節は大変お世話になりました。お気遣いありがとうございます」
「いやこちらこそ。しばらく制作に没頭できましたか?」
「はい。十分に助かりました」
過分な報酬を支払ってくれた絵の依頼人に感謝していた私は頭を何度も下げました。
「それはよかった。気には掛けていましたが、安心しました」
この機会を逃せば、胸に迫る想いを告げることは二度とないことは分かっていました。
「――阿川さん…言いにくいことですが、あなたに見てもらいたい作品があります」
「私にですか?」
「はい…」
縋るように頷いた私に、思案した阿川さんの口から出た言葉は、私の切迫した気持ちに応えてくれるものでした。
「そうですね…それでは私の部屋に来ませんか?」



月は気まぐれにその姿を雲に隠し、晩秋の夜の帳が東府中の閑静な住宅街に降りていました。渡された地図を頼りにたどり着いた阿川さんの部屋は、府中の森に隣接した瀟洒なマンションの一部屋でした。
部屋着で寛ぐ阿川さんに招き入れられ、穏やかな間接照明が落ち着いた雰囲気を醸す、居間に案内されました。
「夜分にお邪魔して申し訳ありません。これ新物のマロングラッセです」
「藍澤君、そんな気にしないでください。こんな時間に約束して、わざわざ来てもらって」
学内でお会いする阿川さんとはまた別の柔らかな物腰に恐縮しました。

目の前の乳白色の壁に掛けられた、二十号はあるだろうか、朱色の大きな切り絵の額に目を奪われた私に阿川さんは言いました。
「これは、中国の切り絵です。昔の中国の農村の風景でしょう」
「こんなに大きな切り絵は見たことがありません」
「鋭利な刃物で一枚の紙を細密に切り抜いて、相当根気のいる手仕事だと思います。気に入りましたか?」
「はい。僕には真似出来そうにありません」
「でも君は、魅力的な絵を描くことが出来る…そうでしょ?」
表情を緩めた阿川さんの右手が私の背中に触れ、レトロなデザインのソファーを勧めました。
「ボジョレーの新酒があります。一人で飲むのも寂しいので、付き合ってくれます?」
「――ええ、あまり強くはありませんが、いただきます」

親しげに隣に腰を下ろし、曇り一つない磨かれたグラスに静かにワインを注ぐ阿川さんの細く長い指に見惚れました。小さくグラスをぶつけ口にしたワインの味は、今も忘れることはありません。当たり障りのない大学の話を交わし、阿川さんのグラスが空になったのを見届けた私は、迷うことなくリュックからデッサン帳を取り出し、阿川さんに手渡しました。それは恋愛経験のない私が思いついた不器用な求愛の方法でした。

どのような絵が描かれているのか阿川さんにはすでに分かっていたことでしょう、揃えた膝の上にデッサン帳を置いた阿川さんは、ゆっくりと止め紐を解き表紙を開きました。
紅いチョークとクレヨンで仕上げた画像の少年の姿。私を惑わし妖しく美しく、艶めかしい姿態。そして秘めた願望を込めて描いた阿川さんへの愛。
阿川さんが画用紙を捲るごとに、早まる鼓動で震える手に力が篭ります。
「――阿川さん…僕はこの二ヶ月の間、どんな精励な画家でも及ばぬほど、あなたの絵を描き続けてきました」
「こんな気持ちになったのは初めてです。僕は、僕は…あなたが欲しい」

デッサン帳を静に閉じ、前髪のかかった潤んだ蠱惑的な瞳に見詰められ、世の中のすべてが止まったように感じました。私の腿にそっと手を置きしな垂れてきた阿川さんを引き寄せ目を閉じました。鼻腔をくすぐる石鹸の香り、濡れた唇の柔らかさ。重ねた唇から洩れた感謝の甘い吐息。
「ありがとう…」
阿川さんの指を探りあて握ると、握り返してきた指が溶け合ったように感じた瞬間、さざ波のような興奮が身体をめぐりました。


阿川さんが好きだと言うフォーレの夜想曲が流れる寝室で手を引かれ、ベッドの上で私たちは身体を絡ませました。
むせかえるような深い口付けを交わし、はじめて見て触れた阿川さんの身体は、画像の少年のままでした。小さな胸の膨らみに震える手を重ね、脇腹の滑らかな肌触りに酔った指先が脳を痺れさせ、私の興奮をさらに煽ります。
全裸にさせられた私は、身の灼けるような恥ずかしさといたたまれない欲望を両腕で押さえ込まれ、阿川さんの尖らせた舌先が全身を這いずります。はじめて経験する甘美な愛撫に、硬くした敏感な身体は悶えに悶え、容赦なく快感の渦に飲み込まれていきます。
劣情激しい性器から滴る情欲の雫が股間を濡らし、堪らず腰を突き上げては刺激を強請る私。そんな私に目を細め、妖しい加虐の笑みを浮かべる阿川さん。

待ち焦がれ脈打つ性器に阿川さんの指が触れ、垂れた前髪を掻きあげて伸ばした舌が性器の腹を弄り、私は思わず短い声を上げました。周到な舌の愛撫に胸を反らせ、根元を握られた性器は、開いた唇の奥にのみ込まれていきました。
悩ましい唇の愛撫に、やり場のない性感が私を責めたてます。昂る快感に襲われた私は喘ぎ震え、すぐに限界を越えてしまった私は許しを請う間もなく、その夜一度目の絶頂を阿川さんの口の中に迸らせてしまいました。

私と阿川さんとの長い夜は、まだ始まったばかりでした。

つづく。


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コメント

ストーリーの進行をさまたげず、それでいて読者の期待を裏切ることなく、1話の中にきちんと官能シーンを織り込む。
お見事です。
多くの読者の方に支持される理由がわかるような気がします。
書きたいことを見境なく全部詰め込む私とえらい違いです。
しかも長い夜は始まったばかり・・・だなんて・・・。
嫌が応にも次回に期待してしまうではないですかっ!

  • 2014/11/18(火) 19:30:20 |
  • URL |
  • ネジ #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

ネジちゃん ありがとうございます。
特別、構成を考えて書いているわけではありませんが、
最後は濡れ場に逃げているのかもしれません。

美南と藍沢先生のお話として書き始めましたが、どうしても藍沢先生の
過去を書かなければ話が進まなくなりました。

予定より長くなりそうですが、出来るだけ早めの更新を心がけますので(エヘヘ)
よろしくです。

小説、毎回興味深く拝読させていただいております。
私にはロックミュージックが聞こえてきます。
期待のバンド小説!

  • 2014/11/18(火) 23:47:58 |
  • URL |
  • アル #-
  • [ 編集 ]

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