夜のお伽噺

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レクターちゃん 3話


病院の朝は早く、六時の医師の診察に立ち会った私は、院内のコンビニで紙コップのコーヒーを買い外に出ました。
早朝の生温い夏の空気は徹夜明けの身体に重く、駐車場に向った私はクルマの重いドアを開け、どかっとシートに腰を下ろし身体を深く沈めました。
思いもよらぬ出来事から吉永君との再会は、数奇な巡り会わせでしたが、大怪我を負った吉永君が誰よりも私を頼り、密かな胸の内を明かされた今は、昨夜起きた不幸な事故は、私と吉永君を引き合わせる磁力が働いたような気がしてなりませんでした。
そんな不謹慎な考えを、頭を振って否定しましたが、目の前に横たわる傷ついた美少年の耽美な肢体に翻弄され、はじめて知った吉永君の体温と肌触りで昂る神経が、疲労した身体を弄びます。
吉永君の妖しい魔力に教師という仮面を剥ぎ捨て、沸き上がる不健全で邪淫な感情と欲望が、私を強く揺さぶり続けます。身の置き所をなくした私はシートを倒し目を閉じました。

先生の邸宅の東屋で、鈍い光沢を放つ拘束具で両腕をなくし、年代物の姿見の前で不自由な身体を先生に支えられ、羞恥を上回る甘美な行為に喘ぐ私の姿態が、寝不足で痺れた脳裏に浮かび上がり、身体の芯が火照ります。
「美しいものは愚かでなければならない」先生の呟きに酔い、鏡に中で苦悶の表情を浮かべる私が吉永美南に乗り移り、美南の背中から腕をまわし滑らかな素肌に指を這わせる私。
腕の中で傷ついた肢体を悶えさせ、美南の蕩けた吐息がまだ見ぬ欲情の塊を妄想させます。「美南・・」独りごちた私は、湧き出した淫欲の雫で身体が濡れるのが分かりました。

クルマの中で淫猥な夢想に引き込まれ仮眠をとった私は、電話で学校職員に昨夜の事情を説明し、吉永君の親御さんが病院に来るまで付き添うことを話し、担任を持たない気楽さかから今日は欠勤することを告げ、明日改めて吉永君の担任だった小川先生に報告しますと言って電話を切りました。


午前中整形外科を受診した吉永君は入院病棟に移されました。三人部屋の廊下側のベッドに横たわる吉永君は両腕と膝をギプスで固定され、入院着に着替えを済ませていました。
麻酔の薬効とギプスで痛みが抑えられているのか、昨夜より元気を取り戻した様子で、ぎこちない微笑を作り私に向けました。少しこけてしまった頬が病的な美しさを醸しています。
改めて行った精密検査で内臓と脳に全く損傷がないことが分かり、喉の渇きを訴える吉永君に、私は急いで売店に走り、当座の入院に必要な品々を買い揃え病室に戻りました。
吸飲みに入れ替えたミネラルウォーターを喉を鳴らして飲み、乾いて荒れた唇からこぼれた白い歯に安堵しました。

「吉永、痛いか」
小さく横に首を振る美南。
「せんせい、迷惑かけてごめんなさい。学校行かなくてだいじょうぶ」
「もう授業はないから、今日は休んだ。学校には事故のことを話しといたよ」
吉永君の気遣いに応えるように、上掛けの淵から手を差し入れ、力を無くした吉永君の指をそっと握りました。嬉しそうに含羞む吉永君に、私の想いがまたひとつ膨らんでいきました。



カーテンの隙間から真夏の午後の陽射しが、ベッドに差し込む頃、吉永君の母親は憔悴しきった様子で病室に飛び込んできました。心配で一睡も出来なかったのは明らかで、化粧気のない顔に疲労の色が濃く滲んでいます。
五体満足な姿で眠る吉永君を確認して緊張の糸が切れたのか、涙ぐむ母の姿に深い母性愛を感じた私は思わず目頭が熱くなりました。
何度も礼を述べ、頭を下げる母親を私は廊下に連れ出し、ナースステーションの向に設えた面会場に並べられたソファーを勧めました。

「美南の母でございます。この度は息子の仕出かしたことに、大変なご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません」
「はじめまして、吉永君の高校で美術を教えている藍澤といいます」
「藍澤先生、お名前は息子から何度か伺っております」
「お母さんもご存知のとおり、吉永君は授業で美術を選択して、私は吉永君の絵心に感心していました。彼も絵を描くのが好きだとみえて、卒業後も絵を見せてもらう約束をして、私の携帯番号を吉永君に教えてありました。まあ、それが今回役立ったのですが…」
「そうでしたか。あの子は夫の家系を引いたのか、小さいときから絵が好きで」
「――実は、夫はある事情で今はここに来ることは出来ません。夫に代わりお礼申し上げます」
他人には立ち入ることは出来ない夫婦間のことがあるのでしょう、私は俯く母親に吉永君の父親のことを詮索する気はありませんでした。

「警察の方から聞きましたが、島根のご実家にいらっしゃったそうで」
「ええ、軽い認知症を患っている母が体調を崩しまして。ひとり娘の私がしばらく面倒をみていました。今日は近所にいる従兄弟にお願いしてきました」
「それは大変ですね」
私の身体に巣食う悪魔が耳元で囁き、私を焚きつけました。
「どうでしょう、しばらく様子をご覧になって、吉永君の容態が落ち着いたらお母さんに代わって私が付き添います」
「ありがたいお申し出ですが、先生にそこまでご迷惑をお掛けすることは、ちょっと…」
「ご心配いりません。すぐに夏休みもはじまりますし、独り身の私ですから。吉永君は私を頼ってくれましたし、これも教師の務めと思いますから」
「ありがとうございます。本当にご迷惑ばかり掛けてしまって。あの子前にも腕を骨折したことがあって…」
「――二度目ですか?」
「ええ。中学生のときに自転車で。坂を下って、勢い余って、ブロック塀に突っ込んで」
「そのとき右腕を骨折してしまったんです。箸も握れなくて、そしたら同級生の男の子が付きっきりで面倒を見てくれまして。その子のお父様は海外転勤が決まっていて、面倒を見てくれたことが嬉しかったんでしょう、息子は空港まで見送りに行ってしばらくしょげていました」
「そんなことがありましたか…」

吉永君とその同級生との関係に友情以上の結びつきを嗅ぎ取った私は、お母さんの話に驚愕しました。
トラックに追突して、両腕骨折の重傷を負った今回の事故。昨夜の川田巡査の言葉が蘇ります。「なぜ衝突寸前に両手をハンドルから離したのか」
まさか吉永君、君はまさか…わざと骨折するためにハンドルを離し、両手を前に突き出した。母の留守を見計らって…
そして私に連絡した…私の想像は間違っているのでしょうか。

口を閉ざし邪推に耽る私を見詰める母さんの視線に気づいた私は、模範教師のように振舞い背筋を伸ばし、落ち着いた声で言いました。
「私はお母さんの代わりは出来ませんが、怪我が一日でも早く完治するように、私の出来る範囲でお手伝いします。ご心配でしょうから、お母さんとは頻繁に連絡を取るようにいたします」


後ろ髪を引かれる思いで吉永君の母親が島根に戻ったのは、警察との事故処理が終わり、ちょうど一週間後のことでした。

つづく。



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コメント

ああっ、なんだかまだ予断を許さない感じで・・え、なに、どういうこと、どうなるの?って感じです。
酔わされますね、文章運びに。
次話、期待しております。
(全然内容のないコメント、申し訳ないです)

  • 2014/09/22(月) 21:10:53 |
  • URL |
  • ネジバナ #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

ネジちゃん ありがとうございます。

やっとこさ三話、どうにかシチュエーションが揃ってきました。

しかし、お話を書くことは大変ですね。
でもコメント頂くと、ガンバルゾ!って気になります。
ありがたいです。

みなさんの股間に響くお話に出来るかどうか・・

もうしばらくお待ちください。




  • 2014/09/22(月) 22:20:37 |
  • URL |
  • アル #-
  • [ 編集 ]

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