夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

レクターちゃん 2話


夏休みを間近に控えた蒸し暑い夏の夜でした。まもなく日付も変わろうかとする頃、携帯の受信音に寝入りばなを起こされた私は、表示された覚えのない番号に、なぜだか胸騒ぎを覚えました。
用心深く「――はい」とだけ応えた私に、男の声は深夜の電話を侘び、落ち着いた口調で用件を切り出しました。
「藍澤さんでしょうか?夜分申しわけありません。こちら三鷹署交通課の川田と申します」
「吉永美南さんをご存知でしょうか?」
吉永美南・・記憶のとば口にいつも顔を出す名前は忘れることはありませんでした。
「ええ、知っています。彼がどうかしましたか?」
「じつは先程、吉永さん交通事故に遭われK大学病院に搬送されまして…」
「えっ、交通事故!」
私は一瞬で眠気が覚めました。
「はい。吉永さんのお母様にすぐに連絡がついたのですが、いま島根にいるそうで、こちらにはご親戚がないと伺い困っていたところ、連絡してくれと、あなたの名前を吉永美南さんの口からどうにか聞けたものですから。所持品の携帯から藍澤さんの電話番号を探して連絡した次第です」

やはり悪い知らせでした。警察官の無駄のない物言いが、事故の大きさと怪我の深刻さを想像させました。
「吉永君は大丈夫ですか!」
「混濁していますが意識はあります」
「失礼ですが、あなたと吉永美南さんとのご関係は?」
「吉永君は高校の教え子で、今年の春に卒業しました」
「先生ですか…」
教師という立場が男を信用させたのか、当座の身元引受人が見つかり、男の声から安堵した雰囲気が伝わりました。
「実はいろいろな手続きがあります。大変ご面倒で申し訳ありませんが、病院までご足労願えませんでしょうか?」
「すぐに伺います」
「自動車で来られますか?ご心配でしょうが、くれぐれも安全運転でお越しください」


急いで着替えを済ませた私は、マンションの地下駐車場に停めてある、先生から預かっているクルマのボディーカバーを慌てて剥ぎドアを開けました。何度乗っても落ち着かない真っ赤な内装が、吉永君の血の色を、車内の澱んだ空気が血の匂いを連想させ、いつも以上に息苦しく感じます。
私の急いた気持ちを嘲笑うような長いクランキングの後、漆黒のジャガーは無理やり起こされた黒豹のように大きく身震いして、私は不機嫌に上下するアイドリングを無視して、クルマをスタートさせました。吉永君の悲痛な叫びが聞えた私は、タイヤを軋ませ国道を飛ばしました。




深夜の静まりかえった病院の暗い廊下に靴音が響きます。一晩中消えることのない照明が廊下にもれる救急科の受付の前に、二人の警察官が私を待っていました。
電話をくれた川田巡査部長によると、事故は午後9時48分頃、信号待ちで停車していた通貨物自動車の後部に原付二輪車に乗った吉岡君が衝突したそうです。吉岡君の前方不注意と速度オーバーの過失が事故の原因は明らかで、警察では単独事故として処理されるだろう言います。
「――たたちょっと分からないのは…」
何かを言いよどむ川田巡査の顔を私は不安げに見詰めました。
「衝突の直前に吉岡さんは両手を前に突き出したようで、そのため両腕骨折の重傷を負ってしまったと」
「両手をですか?」
「ええ。普通は衝突を回避するために、ハンドルを握り急ブレーキを掛けますが、今回の事故はブレーキの跡がありません」
「まだ本人から詳しい事情は聞いてはいませんが、なぜハンドルから手を離したのか」
「咄嗟に身体を守ったのでしょうか?」
「まあ、そうだと思いますが…」
多くの事故現場を見ている警察官ならではの疑問が感じられたのでしょうか、川田巡査は慎重に言葉を選び、声を潜めました。


救急科のドアから顔をのぞかせた看護師に名前を告げた私は中に通されました。
水色のカーテンで仕切った治療台に吉永君は、見るも痛々しい姿で横たわっていました。上唇に赤黒い出血跡があるだけで顔は無傷でしたが、点滴が刺し込まれた赤く腫れあがった両腕は金属の板で固定され、紙おむつから伸びた、紫色に変色した左脚の膝は右膝の倍以上に腫れていました。
検査の結果、両腕の橈骨(とうこつ)という骨の骨折と強打した左膝蓋骨(膝の皿)にひびが入る重症ですが、脳と内臓の損傷は、検査の結果今のところ無いと担当の若い医師から告げられました。医師は身内ではない私にそれ以上詳しいことは語りませんでしたが、命に別状がないことが分かり、私は胸を撫で下ろしました。

病院の手続きを代理人の私が済ませ、私はベッドの脇に置かれた丸椅子に腰を下ろしました。しばらくぶりの再会が、このような状況になってしまったことに胸が締め付けられます。
熱があるのか額に浮かんだ汗を私はハンカチでそっと拭いました。麻酔が効いているようで、耳元で呼びかけても反応はありませんが、苦しいのか薄い胸が荒い息で上下しています。

初めて見る吉永君の素肌は、想像していた以上に白く透きとおるようでした。
傷を負って眠る美少年の肢体。なんと魅力的な姿でしょうか。先生の気持ちを改めて理解した私は、その不自由な身体から発する妖しい魔力に引き込まれていきます。
残虐で妄りがしい欲望が頭をもたげ、異常な興奮の昂りが私を襲います。そのきめ細かな素肌に誘われるように、不謹慎ながら、私の震える指は吉永君の汗ばんだ左胸に伸びていきます。
小さな乳首の柔らかさ、指先から伝わる早い鼓動。指を滑らかな脇腹に這わすと、「ううっ…」と呻き声を上げ、吉永君は眩しそうに薄目を開けました。

「――せんせい…」
「吉永」
「――きてくれて、うれしい」
吉永君が私を頼ってくれたことに喜びを感じました。
「ぼく、せんせいのこと…」
涙を浮かべ、眉間に皺を寄せては、辛そうに乾いて張り付いた喉を絞るような擦れた声を、私は自分の唇に人差し指を当て、続く言葉を遮りました。同じ色を持った者同士の暗黙の了解に慈しみを込め、何度も頷きました。
「分かっていた、分かっていたよ。ここにいるから心配するな。今夜はもう休め」
私は美南の潤む瞳を覗き込むように顔を寄せ、頬を伝う涙を拭いました。そして紙おむつの股間に手の平を重ねると、安心したような長い溜息を洩らし、すうっと尿を洩らすのを感じ取りました。

「美南、いい子だ」
私は美南の前髪を掻き揚げ、火照った額にそっと唇を当てました。


つづく。


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コメント

こ、これはミステリ?それともサスペンスに舵を切るのか?と思いきや、後半できっちり二の腕が泡だってくるようなエロい展開が!
いや、勉強になります。
包帯とオムツのダブルフェチ。
(あ、包帯の描写はないか)
病床にあるにもかかわらず鬼畜にも剥かれてしまうのか、はたまた寸止めか、次回、期待しております。

  • 2014/09/07(日) 13:20:24 |
  • URL |
  • ネジバナ #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

ネジちゃん ご訪問ありがとうございます。

少々早い展開ですが、多くの読者のご要望を再認識し、このような流れにいたしました。
私の変態嗜好に、どこまでお付き合いいただけるのか不安ですが、グロに陥らないように
進めていこうと思っていますが・・どうなることやら(笑)

お話はまだ続きます。よろしくです。

  • 2014/09/07(日) 14:49:19 |
  • URL |
  • アル #-
  • [ 編集 ]

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