夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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ゴジラ病

誰にも記憶があると思うが、小学生の頃の一日は長いものだった。学校が昼で終わる日などは、
夕方までたっぷりと時間がある。両親が離婚してからは、看護婦の母は昼も夜も家にいないことが普通だった。
一人っ子の鍵っ子だったこともあり、一人遊びのほうが気楽で落ち着けた。
一人で留守番をする私を不憫がる母は、近所にあるレンタルビデオ屋に私を連れて行き、
ビデオを好きなだけ借りてくれた。
はじめはアニメのビデオを借りていたがそれも飽き、特撮物に興味が移った私は怪獣物がお気に入りになっていった。
一番のお気に入りはゴジラ。それもモノクロの初期の作品だった。

カラー映画が当たり前の世代の私に、モノクロの映像が新鮮だったこともあったが、その後シリーズ化された
怪獣同志の対決物に比べ子供心にもリアリティーが感じられ、私には恐怖感もひとしおだった。
家もビルも電車も何もかも無差別に東京の街を破壊する巨大怪獣ゴジラ。逃げ回る人々の恐怖に怯える顔。
当時小学六年生になりたての私には、今夜にでも起こり得る出来事のように思えていた。
夜勤で母が一晩中家にいない時などは、外で大きな物音がすると「ゴジラが来た!」と飛び起き、
カーテンの隙間から外を覗き、普段と変わらない静かな夜の街に安心して胸を撫で下ろしていた。

当然のことだが、夢の中にもゴジラが現れるようになった。
ゴジラの上陸に夜の街を走り逃げる私。ゴジラは何故か私だけを執拗に追いかける。
逃げても逃げても追いつかれ、恐怖の地響きで心臓が破裂しそうになる。
逃げ込んだ家の中で布団を頭から被り息を殺す。しばらくすると地響きが止み、夜の静寂を取り戻した街に安堵し、
布団からそっと顔を出した私の目に飛び込んだのは、全開した窓から部屋の中を覗き込むゴジラの濁った眼だった。

ゴジラと視線が合った途端、あまりの恐怖で声も出ず、金縛りにあった私は硬直した身体をゴジラに捕まえられたとたん、
経験したことのない烈しい蠕動と切ない快感が全身を貫き、目を覚ました。
真っ暗な部屋の中で覚醒した私は涙ぐみ、股間のぬるっとした感覚に、おねしょをしてしまったと急いで布団を剥ぎ、
パジャマを下ろした。おしっこを我慢した時のように固くなったおちんちんが粘液で濡れていた。

その晩から月に何度もゴジラとの濃密な夢想が押し寄せ、恐怖と快感で全身を硬直させていた。
中学生になった私は、体感したことは夢精であることを理解したが、自慰行為を覚えてからも、
ゴジラとの夢の中での関係に勝ることはなかった。
それどころか、ゴジラに捕まった私の身体が、好きなアイドルの少女に入れ替わったり
気になる同級生の女子になったりすることもあり、私の思春期は自分自身でも制御不能なゴジラとの関係が
深まるることになっていった。
そして、私の悩みを「ゴジラ病」と名付けた男と知り合うことになるのは、人並みに受験勉強を経験し、
高校に入学した初夏の季節を思わせる五月の連休のことだった。。


ゴジラの大きなポスターが販売されていること知った私は、神保町の古本屋街に出掛けた。
ポスターを部屋の天井に貼り、布団の中から眺めるのつもりだった。
連休の神保町は本を探し求める人々で溢れ、目的の書店は大通りから一歩奥に入ったビルの二階にあった。
ガラスの扉を開けると少し黴臭い空気が鼻をくすぐった。映画関係の書籍が隙間なく詰まった書棚、
書棚に入りきらなかった雑誌が通路にまでうず高く積まれ、壁には映画のポスターが所狭しと飾られていた。
怪獣や特撮物のポスターは店の奥にコーナーが設けられていた。
ポスターは薄いプラスチックで額装され値段が張られていた。ゴジラのポスターはすぐに見っかったが、
私が欲しいモノクロのポスターは大変高価で手の出るものではなかった。
小さなブロマイド写真は有ったが全く食指が動かなかった。

ポスターの前で腕組みし何度も溜息を付く私に声を掛けてきたのが、大学生の阿久津だった。
「君もそれが目当て?」
振り向くと見知らぬ青年が立っていた。青年の人懐っこそうな笑みに気を許した私は青年の問いに答えた。
「ええ、でも高くて……」
「本当に高価だよね。それは当時の原版だからね」
「原版?」
「そう。複製だともう少し安いのだけど、ここには置いてないよ」
「君が何時までたってもポスターから離れないから、君に買われてしまうかと思ってひやひやして見ていたよ」
「これ買うのですか?」
「いや、今日は買えない。でもいつか手に入れるつもり」
「君もゴジラのコレクター?」
「まあ……」
コレクターではない私は曖昧に答えるしかなかった。
「実は大きなゴジラのポスターが欲しいのです。それもモノクロの――ゴジラの顔だけでもいいのですが……」
「顔だけ?面白いこと言うね。顔だけ欲しいマニアとはじめて会ったよ。どうお昼一緒に食べない?」


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あの頃

スタンドの明かりを消す。真っ暗になった部屋が湿気を含んだ夜に呑み込まれ、濃密な夢想が押し寄せる。

水が全身を包む。さらさらとした水ではなく、ねっとりとまとわりつくオイルのような感じだ。

裸の僕は、しきりに両腕で水を掻き、水面に出ようともがいているが、もがけばもがくほど水は圧迫を加え、僕にすき間なくまとわりついてくる。

でもその感じは嫌でなく、むしろ気持ちがいい。裸で皮膚と皮膚をくっつけ合って男に抱かれるのってこんな感じだろうか。

下半身が熱くなり指を股間に伸ばす。勃起した性器が濡れて、ぬるぬるとした感触が生まれる。

股を開き俯せになり、指をお尻の谷間に伸ばす。性器をシーツに擦り付けると全身がわななき、あっけなく射精した。

朝方、雨の音でぼんやりした頭が少しずつ目覚めた。僕は逃げていく夢の印象を手繰り寄せていた。


13歳の少年が、子供なのか大人なのか、今でも言い切ることはできない。

大人のような子供、子供のような大人だったのか……

あの頃の私は、きっと子供のような大人だったのだろうと思う。



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