夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

あの頃は肉体も精神も、溢れるエネルギーを持て余し、闇雲に突っ走っていた。無尽蔵と思えたあのエネルギーはどこへ消えてしまったのか。
今でもとり戻すことができるのだろうか……いや、今更そんなものをとり戻してもしょうがないだろう。
それでも、もう一度、もう一度だけでも……


若い男たちのパーティーに幾人かの年上の男が招かれていた。費用が足りなくなったときには払わせようという彼らの魂胆も分かっていたが、鮫島譲二はそれを承知で参加を伝えた。
出掛けてはみたものの、案の定、若者特有の騒ぎに溶け込めず、居場所をなくした鮫島はカウンターに席を移した。バーテン相手にウイスキーを舐めていると、隣の席に青年が腰を下ろした。
色白、細面の顔。口元には人の良さそうな、優しげな笑みが浮かんでいる。そのパーティーではじめて会った尚之は、二十歳前に見えた。

「君、なんという名前」
「尚之です」
「苗字は?」
「――そんなことどうでも…」
「もし私と同じだったら、面白いと思って」
「どう面白いのですか?」
「弟のような気がする」
青年は声もなく笑い、鮫島の面白くもない冗談を受け止め、微笑みを含んだ大きな瞳で鮫島を見詰めた。少年のような眼差しがなにやら艶めいて見え、鮫島の官能をくすぐった。
尚之は鮫島から名前と漢字の表記を聞くと、「推理小説の主人公みたいな名前ですね」と微笑み、鮫島は尚之と、ひとしきり本や映画の話に興じた。
尚之の鮫島に向ける眼差しは心なしか温かく、もうその時から二人は友人になれる予感がしていた。


鮫島が、封切したばかりのスパイ映画に尚之を誘った夜、帰宅を渋る尚之に付き合い、夜の街を歩く。歳は離れているが、気の張らない友人と、こうして酔い覚ましの散歩するのは、いつ以来だろう……鮫島はあまりにも遠い昔の出来事のような気がした。
不意に立ち止まった尚之は、人通りの途絶えた街にそびえ立つ高層ビル群の夜景を見上げた。
尚之の思いがけぬ横顔の美しさに、鮫島は見惚れる。
鮫島は尚之が口元をかすかに震わせたのを見て、すごく緊張しているように思えた。何か言いそうにしては言いよどみ、穏やかな表情の鮫島に顔を向け、尚之はようやく呟くように言った。
「――鮫島さん……今夜、僕を鮫島さんの弟にしてくれますか?」
尚之の顔は真剣で、声は潤んでいた。
「僕には男兄弟はいないけど……」
「兄さんとなら……」
尚之の性のエネルギーが埋め込まれたロマンチックな期待は、鮫島の心に沈殿していたものを浮き上がらせる。
「ああいう場所へ顔を出しているけど、僕、本当は……」
尚之は、本当は恋に臆病で恋愛経験が少ないことを打ち明けた。
「こんなに可愛い弟は大事にしないと……」
鮫島は大きな手で尚之の頭を撫で、俯く尚之にはにかむ笑みがこぼれた。

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