夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

オフ会 (二次会)

合コンの達人(上司、商品開発部主任)曰く
いいか萩原、一次会はプレゼンテーションの場だ。
顔見せ、探り合い、いかに自分をよく見せ、売り込むかが最大のポイントなのよ。
いいか萩原、二次会こそが主戦場。だから、酒も入って砕けた雰囲気を壊さずに、いかにして二次会に持ち込むかに、
男の技量が問われるのよ。

二次会は絶対、カラオケ!
音デカイから、会話の距離は縮まる、薄暗いから、いい雰囲気になりやすいだろ?
萩原!ちゃんと聞いてる?
主任、俺、一刻もこの場から逃げ出したいです。でも、とても逃げ出せそうには…
どうしたら……
萩原、お前なに贅沢言ってやがる!
でも、形は女性ですけど全員オトコですよ。
ナニ!オトコだと!――ご愁傷さま……
しゅ、主任!逃げるな!



女三人寄れば姦しい」とはよく言ったものだ。
二次会も問題なく(俺以外は)決まり、ドルチェを頬張る、三人娘の姦しいこと……。
食後の満ち足りた雰囲気を壊す、すべての会話に感嘆詞がついた、おなじみ女子たちの会話。

同じ趣味の者同士共感することが多いせいか、テンション高く優子が話しかけると、そのテンションに合わせて、
ヨシリン、サトミまでもテンションを高めている。
それが高じて、会話は天井知らずのハイテンションになっていった。
大好物のティラミスをじっくりと味わいたいの!俺まで女言葉になってしまった……。
口惜しそうな、お仲間石田に見送られ、俺はレストラン伏魔殿を抜け出せた。
女装子御一行様は、足取りも軽く歌舞伎町に繰り出して行く。皆さん、ハロウィーンにはまだ早いですよ……。

『一難去ってまた一難』
『郷に入っては郷に従え』
『朱に交われば赤くなる』
『背水の陣』
『毒を食らわば皿まで』
俺の頭の中で、故事ことわざが渦巻いていた。
『朱に交われば……青くなる』こうなったら『背水の逆転劇』、学生時代のコンパのノリで、凌ぐしかあるまい。
もうどうなっても知らんから……ボク。


「本日はカラオケ屋敷に、にぎにぎしいご来店、誠にありがとうございマッスル!マッスル!」
「マッスル!!マッスル!!」
三人ともハイテンションを引きずっていた。みなさん、完全に男のノリですよ。
「司会進行は、毎朝メンズビオレで洗顔している、斜向井オサムでございます」
「オサムちゃん、私も使てる!」優子の声に一同爆笑!
「アハハ、ありがとうゴザイマス。社長に代わりお礼申し上げます」
「では早速、トップバッター、わたくしオサムが、歌いますは、みなさまお馴染み、郷ひろみのデビュー曲『男の子女の子』
元気よくいきマッスル!」
『郷に入っては郷ひろみ』でしょ。

♪君たち女の子、それとも男の子、ヘイヘイヘイ ヘイヘイヘイ
おいで遊ぼう~僕らの世界へ 走って行こう
幸福さがすのは まかせてほしいのさ ヘイヘイヘイ ヘイヘイヘイ
夢があふれる いちどの人生 だいじな時間~

「郷ひろみにつづいて、なんと聖子松田!意味深でございます。歌うは優子さん 
曲は『チェリーブラッサム』よろしくお願いしマス!」

♪何もかもも目覚めてく 新しい私
走り出した愛は ケンジへとつづいてる
自由な色 自由な愛 描いてゆく二人で~

「イエーイ!拍手~」
デキル女のぶりっ子、歌詞を変えるもなかなかのもんじゃないの。優子君、お父ちゃん見直した。ウンウン。

「オット、途切れなく続くイントロビート!松田聖子とアイドルの双璧、明菜中森ではア~リマセンカ。
歌うはヨシリンさん、『少女A』よろしくお願いしマス!アキナ―!」
さすがカラオケ慣れしているヨシリン、松田聖子に対抗して、中森明菜をさっさと予約していた。

♪上目遣いに盗んで見ている ケンジの視線がまぶしいわ
思わせぶりに唇ぬらし
きっかけぐらいはこっちでつくってあげる
いわゆる普通の27歳だわ
男の娘のこと 知らなすぎるあなた
変わっているのは しかたないけれど
似たようなこと 誰でもしているのよ
じれったい じれったい
何歳にみえても 私オトコでも
じれったい じれったい
私は私よ 関係ないわ
特別じゃない どこでもいるわ
わ・た・し女装子Y~

オドロイタ。オドロイタヨ~ヨシリンまで替え歌で攻めてきた。
でもヨシリン、普通じゃありませんよ。どこにでもいたら、大変だゼ!


二人に先越され、出遅れたサトミは選曲に悩んでいた。
聖子、明菜、この流れを止めるわけにはいかんでしょうに……サトミ、アイドル路線で行けよ。
眉根を寄せ真剣にリモコンと格闘するサトミが見ていられなかった。
サトミちゃん、そんな怖い顔しちゃ、せっかくのメイクが台無しですよ。

しょうがねえ、助け舟を出してやるから。サトミ、覚えているか?
コンパで大受けした曲を俺はチョイスして、サトミの脇腹を肘で突いた。
曲名を見た途端、サトミの顔がパッと華やいだ。嬉しそうに何度も小首で頷き、ウインクしやがった。
思い出したか?お前荻野目洋子になり切って、踊ったあの夜のこと。
アンコールまでさせられてよ。お前その頃から、その気があったんだな……上手いわけだゼ。

「さあ~お次はサトミ、伝説の卒業コンパを思いだして歌います。『ダンシング・ヒーロー』荻野目洋子、レッツ、ダンス!」
イントロが流れ、俺はサトミの後ろに飛び出し、二人で何度も練習して完コピーした振り付けを披露した。
サトミも身体が覚えていたのだろう、曲に合わせ難なくステップを踏んでいる。サトミ、ヤルゼ!

♪愛してるよなんて、誘ってもくれない
新宿のネオンが素敵な夜よ
今夜だけでも シンデレラボーイ
ドゥ ユウ ウォナ ダンス トゥナイト!
ロマンティックをさらって
ドゥ ユウ ウォナ ホールド ミイ タイト!
ちょっと変わった シンデレラボーイ
ドゥ ユウ ウォナ ダンス トゥナイト!

「ゴーゴー、レッツゴー、レッツゴー サトミ!」
シンデレラボーイかよ、早く12時を回ってほしいね。


「楽しい!二人息もピッタリね。相思相愛なのね。ちょっと妬けちゃう」
唇を尖らせ、拗ねた優子のいじらしい素振り……そうゆうの男は弱いのよ。
「ケンジ君、私とデュエットして」
「ええヨロコンデ」
「何がいい?」
「優子さんにおまかせ、何でも」
「それじゃ、ワインディング・ロード」
ゲッ!そんな難しいの、歌わせるのかよ……。
「オッケーです。優子さんが綾香で――僕が……オフクロさん?」
「それは森進一」
「じゃ、タマブクロ?」
「それは筋太郎!」
「エヘヘ失礼しました。では、コブクロで。優子さんノリいいですね」

♪曲がりくねった 道のさきに 
待っている幾つもの小さな光
まだ遠くて見えなくても
一歩ずつ それだけを信じていこう
全てを愛せなくても ありのままの心で
なにかを一つだけ 愛し続けている人~

二本のマイクスタンドで向かい合い、優子の歌声にハモリを効かせた。
両手を広げ、全身でリズムを取り、気持ちよさそうに熱唱する優子。
『毒を食らわば優子まで』
優子に乗せられた俺は黒田俊介を気取った。ちくしょー、グラサン持ってくればよかったゼ。
サトミちゃん、会社の宴会で鍛えられた俺の実力、思い知ったか!ワハハ。

上手く歌え終えたと、満足そうに顔をほころばせた優子に手を引かれ、並んで腰を下ろした。
優子の左手が何気なく、俺の腿にそっと置かれ、優子のつけている香水の香りが俺を惑わした。
成人男子として当り前の行為、優子の手をやさしく握ってしまいそうな衝動を抑え込んだ。
その瞬間、俺は「夜間飛行」という香水の名の意味を知った気がした。
危うく墜落しそうだったゼ。アブネ~


続きを読む
スポンサーサイト

オフ会 (伏魔殿)

連休の中央総武線は空いて俺は内心ほっとした。
それでも向かいの端に座っていた女子が、女の直感だろうか、何気ない素振りでサトミを疑うような視線に気づき、
俺はさり気なく咳払いした。

サトミは座席に座るやメールを打ち始め、俺はスマホの画面を横目で覗いた。
「優子さんにメール送っとくね。ただいま東京に到着。迎えに来ていたK君と会いました。
これから二人で新宿へ向かいます―送信!」
女子サトミになりきった聡は、慣れた口調で女言葉を操った。
「聡、いやサトミ、東京に着いたって、どういうこと?」
「ケンちゃん鈍いね、昨日東京に来て、ケンちゃんの部屋に泊まったなんて言ったら、変な誤解を生むよ。
――話がややこしくなるもん」
「そ、そうだな、さすがだぜ」

オフ会の場所が新宿だとはきいていたが、まさか二丁目ではあるまいな……その筋の聖地として有名だが、
もちろん足を踏み入れたことはない。
偶然会社の知り合いに出会うことはなかろうが、不安がよぎった。
「新宿って、やっぱり二丁目か?」
「ううん違うよ。優子さんが贔屓にしている所だって――もう一度確認するね」


新宿は行き交う人の多さは普段と変わりなかった。
スマホ片手に颯爽と歩くサトミは、普通の女子として人込みにまぎれ、誰も振り返る者はいなかった。
サトミの度胸のよさに比べ、小心者の俺は、無理やり連れ出された犬のようにキョロキョロ見回し、
サトミご主人様にリードを引っ張られ、キャインと鳴きまねしてみた。

大ガード交差点を渡り、西武新宿駅に程近い横丁を曲がり、サトミは看板を指さした。
『Trattoria・橘』
さりげなくランチメニューが飾り台に置かれ、カジュアルな雰囲気のイタリアンレストランだった。
サトミと同じ趣味の者が集まる伏魔殿を想像して、身構えていた俺は拍子抜けした。

「サトミ、写真撮ってやろうか?」
約束の時間に間に合ったことを知った俺は、行く先々でブログに載せる写真を撮っているサトミを察してきいてみた。
「やめとく。ブログでオフ会の会場は新宿の某所にするつもり――秘密ってこともないけど、
もしレストランに迷惑かけると困る」
思わぬサトミの気遣いに感心した。思い出せば、大学時代の聡は誰にでも気遣いを見せるイイ奴だった……。
いや、俺以外にはイイ奴だったのだ。今回の聡の俺への仕打ち、気遣いの微塵も感じられん!

入り口に立った俺たちに歩み寄った、お約束の黒色の長いエプロンを腰に巻いた、
男の俺から見ても長髪のイケメンのカメリエーレ(会社の女子に教わった)に、
予約したタチバナユウコの連れだとサトミは告げた。
ナニ!タチバナユウコだと!――レストランの名前は『トラットリア・橘』、ハンドルネームだが、
優子の苗字が同じタチバナ……どういう繋がりがあるのか、それともただの偶然か。
優子のブログには「橘」の文字は見当たらなかったが……

「お待ちしておりました」と明るい口調のカメリエーレが、一瞬値踏みするような視線を向けたのを俺は見逃さなかった。
ここは優子が贔屓にしているところだとサトミは言っていた。
優子は常連客の一人に違いない。ということは、彼は馴染みの優子が女装子だと知っているはずだ。
その繋がりで、サトミも女装子だと分かっているのか……まあ、よく見りゃわかるわな。
女装子のオフ会にノコノコついて来た俺は、彼の目にどう映ったのか気になったが、
度量の広い男を演じる俺は、彼に微笑み替えしてやった。
彼の表情が和らいだのはどういう意味だ。憐れんでいるのか、それとも……。


サトミと俺は、カメリエーレに従い階段を上がった。
1階は、数組のカップルを除き、ほとんどが女性の集まりで埋まり賑やかだった。
2階の個室のように仕切られたボックス席も女性同士の先客がいて、
女性に人気の高いレストランであることは一目で分かった。俺たちは一番奥の席に案内された。

すでに優子とヨシリンは来ていた。
「あっ、サトミちゃん!」
スマホから顔を上げたヨシリンが声を上げ、つられて優子もスマホから目を離した。
「優子さん、ヨシリンさん、はじめまして、おそくなりました」
立ち上がった二人は、サトミと両手を握り合い破顔させ、女子だけが許されるスキンシップの挨拶が行われた。

手前の白の半袖ニットにタイトな黒のスカート、髪の長いのが優子で、斜め分けしたショートヘア、
小さな襟の淡いピンクのブラウス、ココア色のスカートがヨシリンだとすぐに分かった。
優子とヨシリンは、すでに面識があることは優子のブログで俺は知っていた。
予習しといてよかったぜ。

サトミは俺の左腕をそっと掴んだ。
「紹介しますね、彼がK君です」
「初めまして、ケンジです。今日はお招きいただき、ありがとうございます。折角の集まりにお邪魔して、
ご迷惑ではなかったですか?」
「迷惑なんて、ちっとも。優子と申します」
「はじめまして、ヨシリンです。サトミちゃんにお願いして無理やり誘っちゃって――でもお会いできて嬉しいです」
二人は容姿だけではなく、驚いたことに声音まで変えていた。
実物の優子は大人の女性そのものだった。ハッキリとした目鼻立ち、アン・ハサウェイに似ていると言ったら
褒めすぎだな……やめとこ。
デキル女性の知的なオーラを振り撒き、近寄り難い雰囲気すら感じた。

「サトミちゃんが自慢していたけど、ちょっと向井理に似ていますね」
小柄なヨシリンのキュートな笑顔が、眩シ~イ!やっぱり夏目三久に似ている!コマッタゼ!
「アハハ、よく言われます。オサムはオサムでも、ザ・ぼんちのオサムちゃんに似ているってね」
優子は笑ったが、ヨシリンにはギャグが通じなかったようだ。やはり優子は俺たちより、かなり年上のようだ。
聡、お前本当に適当なこと言ってくれたな。オボエトケヨ!


優子の隣にサトミを座らせ、俺はテーブルの端に腰を下ろした。
気心知れた(同じ趣味だから当たり前だ)三人は、すぐに打ち解け、お互いのコーデを褒め合い、
それを理解ある俺は温かい眼差しを作り見守った。
テーブルに前菜とスパークリングワインが用意され、小指を立て、細いグラスを品よく手にした優子に、
俺は乾杯を指名された。
「では僭越ですが、皆様の美容と健康にカンパイ!」
すぐに気の利くホスト役に転じた俺は、グラスを掲げた、三人娘をサトミのスマホで記念撮影した。

「ケンジ君はサトミちゃんと、大学の友人だったのよね?」
「ええ、同じゼミのご学友でした。ご学友なんて高貴な関係じゃないけど、アハハ」
「サトミちゃんはその頃から……」
優子の言わんとすることはすぐ分かった。その頃から俺の前で女装をしていたのかと。
隣のサトミの緊張が俺に伝わった。
「サトミとはごく当たり前の友達です。ゼミの仲間からのウケはイマイチでしたが、ギャグばっかり言い合って
ふざけていましたよ」
俺は先程の滑ったギャグの言い訳を含めて言った。

「――大学三年の学祭で、女装コンテストがあったんです」
「サトミちゃん出たの?」
「いえ、サトミと俺は客席で見ていました。優勝したのは、誰もが納得した二年生でしたが、
帰り際サトミは僕の方が絶対上だって、出場したら優勝したって。
いつもの冗談なのか、本気なのか分からなくて、相手にしなかったら、いつになくムキになって
――次の日、はじめてサトミの画像を見せられました……」

「私ね、昔も今もケンジ君みたいなリアルな友達はいないんだけど、どう思った?」
身を乗り出した優子の鋭い問い掛けに、ヨシリンもそれに加勢してきやがった。
「私も、すごく知りたい!」
「――納得させられた、いえ納得しました。口には出しませんでしたけど、ヤラレタって思いましたよ。
優勝した奴より上でした」
「もちろん戸惑いましたが、相当な覚悟で俺に見せたのだと思いました。サトミの真剣さが分かりました
――サトミは何に対しても真剣に取り組むのを知っていましたから……」
サトミは神妙に俯き、指先を弄って気恥ずかしさを誤魔化していた。

「だから俺は、変な意味ではありませんが、サトミの気持ちを受け入れました。
そうゆう趣味の友人がいてもかまわないって思いました」
「今日、卒業以来、しばらくぶりにサトミと会って、正直驚いています――レベルアップしたと……」
俺は思わせぶりな言葉で、二人が関心あるであろう、サトミと俺との発展に、さりげなく触れることを忘れなかった。
二人は黙って聞いていた。

「優子さん、ヨシリンさんもそうでしょうけれど、サトミの情熱とエネルギーは大変なものだと、俺なりに理解しています。
誰にも真似出来るのものではありません」
俺は優子、ヨシリンの目を逸らさず、慎重に言葉を選び、どうにか優等生的答えを出した。
俺の答えに安堵したのか、顔を上げたサトミは俺に向かって、ニタッと笑った。
聡、この貸しはきっちり返してもらうからな!

俺とサトミの関係、さらには俺の女装への理解が二人に伝わったのか、場の雰囲気が一気にほぐれた気がした。
三人は運ばれたリゾットを写真に撮り、スマホを手渡され、カメラマン役を仰せつかった俺は、微笑む彼女たちを撮った。

俺に向ける、優子とヨシリンの迷いのない表情は、気持ちのいいものだった。
その自信はどこから生まれるのか……声まで変えてしまう、長いキャリアは言うまでもないだろうが、
性別に関係なく魅力的な人間性が醸しだされているような気がした。
彼女たちは大人なのだ!

続きを読む

オフ会 (後編)

女装姿ではじめて遠出した疲れと、俺の説得に成功して安心したのか、聡はアパートに戻ってくるなり、
敷いてやった客用布団に倒れ込み、そのまま爆睡してしまった。
酔った勢いで「任せておけ」と大口を叩いたものの、落ち着かなかった。
オフ会で誰とも会話がかみ合わず、困惑するであろう聡に、親友として恥をかかせるわけにはいかない。
俺は居間で独りパソコンを立ち上げ、聡のブログをもう一度見直した。

ブログをはじめた頃から聡の女装姿は、本人も豪語するだけあって、ド素人の俺が見ても見苦しいものではなかった。
月日を重ねる程、磨きがかかり、撮影技術の向上を差し引いても、本物の女に見間違うような変貌を遂げていて驚いた。
記事の内容はデタラメではなかったが、よくもこんなに適当なことを俺に内緒で書いていたものだと呆れた。
大学を卒業し、お互い住む所も生活も変わった現在も、女装子サトミと不思議な関係が続いていることになっている。

サトミの特殊な趣味の理解者として登場する俺の言葉と態度が、読みようによっては、
俺がサトミに仄かな想いを抱いているようにも受け取れ焦った。
聡は何をトチ狂ったのか、「この頃K君の夢を見ます。忙しく遅くまで残業した夜は、必ず夢にK君が現れます。
K君と離れてサトミは、あらためてK君の優しさを実感しています」などとキモイことを平然と書いていやがる。
もしこれが付き合って間がない女のブログだったら、男として悪い気はしないだろうが……。

確かに二人の仲が、特別な関係に発展したことを窺わせる記事はどこにもなかった。
しかし何かのきっかけで、関係が新展開を迎えるような予感をブログの読者は感じてしまうのだろう。
ブロとも優子とヨシリンが、関係を羨みながらサトミの背中を押すようなコメントを寄せていて、
サトミと二人のやり取りは、会社にいる女子たちの会話と同じだった。
まさか、オフ会の真の目的は、俺とサトミの仲を取り持つことなのか……明日は気が抜けん!


「ビジネスの基本は相手の情報収集から」の鉄側に従い、リンク先の優子とヨシリンのブログに順番にアクセスした。
「ゲランの香水のブログと勘違いしていらっしゃった皆様、ごめんなさい」とブログトップに大きな文字で
お詫びが書き込まれた優子のブログは『夜間飛行の香り』だった。
優子はその『夜間飛行』という名のスパイシー?な香水が似合う女性を目指しているのだとか……。
香水の知識などまったくない俺には、悲しいかなイメージが全く湧かなかった。

先入観を持って見ても、優子は女性にしか見えなかった。
毛先が柔らかくカールしたなロングヘアが似合う、目鼻立ちがはっきりしたシャープな顔立ち、
長身でスレンダーな体形から真直ぐに伸びた長い脚、優子が最も気にかけているようだ。
モノトーンの衣装をさりげなく着こなし、ポーズする画像から想像すると、優子は俗にいうデキル女性を
目標にしているのは確かだ。
過去記事一覧をみると、女装キャリアは長く、「優子様」と慕う女装子が大勢いて、彼女たちにお姉さん的アドバイスを残している。年上なのは間違いなさそうだ。
ブログのアクセス数を見て驚いた!優子のファンがいかに多いのか……。
優子が仕切り役を務めた、女子会を思わせるオフ会の記事が幾つもあり、場慣れしている様子が窺えた。

一方『ヨシリンの小部屋』の主ヨシリンは、ショートヘアが似合う、言葉の使い方に疑問が残るが、
ボーイッシュ?な姿をしている。
雰囲気が俺の好みの夏目三久に似ていて、マウスを握る指が俺を急かせた。
二ヶ月前の記事では大胆な水着姿を披露していて、悔しいが男の本能に逆らえず、
画像を何度も拡大して見惚れてしまった。
外出も慣れた様子で、渋谷、原宿、新宿と繁華街に違和感なく溶け込み、洋服、化粧品、スイーツと、
ショップで普通の女子のように買い物するヨシリン。あなたは本当に男デスカ?
ヨシリンのアクセス数も優子に負けていなかった。
彼女たちの人気の高さを思い知らされた。でも一体誰が彼女たちのブログを見ているのか……。

社会人になり、同僚や取引先の女子社員たちに誘われ、飲み会の雰囲気は分かっているつもりだ。
でも、でもよ、女の形はしているが、れっきとした男三人との会食。
どうすりゃいいのさ、思案橋……ズキズキ痛みだしたこめかみを押さえ、布団に潜り込んだ。


続きを読む

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。