夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

レクターちゃん 7話


生まれてはじめて知った、引き寄せられた強烈な絶頂の余韻が残るなか、ベッドを降りた阿川さんを私は目で追いました。ベッドの脇に立つ猫脚の香台に置かれた香炉に火を点し、背を向け部屋着を脱ぐと、クロゼットの中から膝丈の羽衣を取り出し素肌にはおり、腰紐を締めました。一瞬視線に捉えた尻臀を包む下着が艶めかしく見えました。

青磁の香炉から揺らぎ立つ香木のかぐわしい香りが、羽衣に着替えた阿川さんの隠していた妖艶な趣を惹き立てます。
晩秋を感じさせるピンクの山茶花が咲き誇る羽衣姿が、画像の少年の姿に重なります。
あの日から私を惑わし乱し続けた妖艶な少年が、今まさに私の手の触れるところに立ち、私が望み求めた世界へと誘う。それが現実になったことの嬉しさが全身から噴出していたのでしょう、阿川さんの媚態を帯びた微笑が、そんな私に応えてくれました。
阿川さんのなかに生まれた色香に心が捉えられ、夜の香の揺らぎを映す潤んだ瞳の中に意識までもが吸い込まれていくように感じました。

身体を起こした私は、ベッドの淵に斜めに腰を下ろした阿川さんににじり寄り、艶のある髪に触れ、腕をまわし抱き寄せました。柔らかな頬を愛おしみ、言葉にならない声を漏らす唇を塞ぎます。
羽織の懐に手を潜らせ、乳首の先を引っ掻き、肌理の細かい肌が緊張するのが分かります。括れた腰に腕をまわし、たおやかな腿を撫で上げ、大きく割れた裳裾から覗く光沢のある真っ白な下着が私を誘惑します。
じれたように腰紐を解き、肌蹴た胸で上下する小さな乳首を口にふくみ吸いました。阿川さんは、「うっと」呻き細い首を倒し、私は鎖骨、首筋、顎に唇を這わせ、もう一度唇を重ねました。すべてを委ねたように力をなくした阿川さんが、私の腕の中にある悦びに震えます。

脇腹から腰へ舐めるように撫で下ろし、触れた下着の滑らかな肌触りが私を酔わせます。下着に隠された滾る熱の塊が脳を溶解させ、艶めく阿川さんの吐息が揺さぶります。
染み出した情欲の滴りが指先を濡らし、耳元で囁いた願いに恥ずかしそうに頷いた阿川さんは腰を少し浮かせ、私は丸めた下着を脱がせました。

夢にまで描いた阿川さんの性器に息をのみました。あきらかに手入れを施した股間に生える性器は、蜜で濡れそぼつ、可憐な百合の蕾のようでした。私は同性の性器の美しさをはじめて知りました。
尖った蕾は私の手の中で開花していきました。敏感な括れに指を絡め、きわどく切ない呻きを漏らした阿川さんは、私の首にかじりつき、むさぼるように唇を吸い、降り出した淫雨の雫が二人だけの夜を濡らします。

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レクターちゃん 6話


自分を一般的な、健康的な人間だと認めることは、なんだか自分をつまらなくさせるような気がしていました。それはあの年齢にはありがちな思いかもしれませんが、恐れ多くも芸術家のたまごを自認していた私は、或る種、非日常的なこと異質なことに特別なものを感じていました。
芸術がすべからく目指すものは美しさで、つねに絶対的な普遍の美を追い求めることが、芸術家の本懐かもしれません。完璧な女性像の造形美は、誰もがその美しさを認めるものですが、不均衡から生み出される不思議な造形美、不足の美に惹かれていました。そんな私の前に忽然と現れた、妖しくアンバランス少年・・・

自分の希求する世界の本質を紙の上に表現することが可能ならば、その世界を自分の意のままになし得ることになる。私は画像の少年との関係を妄想し甘美な世界に足を踏み入れていました。
すべての画像を正確に写し取っては少年の骨肉を身体の部位ごとに描きだし、自分の願望をデッサン人形にとらせた姿勢に嵌め込んでいきました。それは少年と私のセクシャルな体験でした。

しかし愚かな遊戯の枠からはみ出すことのないその体験も、湧き上がる欲望の歯止めにはなりえませんでした。
まともな恋愛経験もない私は、同性愛者ではないと自覚はしていましたが、少年の肌合い、体温、呼吸、そして興奮、そのすべてを直に触れ感じ取ることの欲求を抑えることができませんでした。
私は密かな想いを描きためたデッサン帳を、あの少年、阿川さんに見せる機会を探っていました。


その日がくることはわかっていました。

学祭の喧騒がまだ残るキャンパスを色づいた樹木が秋色に染めた晩秋の頃でした。
「やあ、藍澤君」
忘れることのない声に歩を止めた先に、笑みを浮かべた阿川さんが立っていました。
「あっ阿川さん、こんにちは。その節は大変お世話になりました。お気遣いありがとうございます」
「いやこちらこそ。しばらく制作に没頭できましたか?」
「はい。十分に助かりました」
過分な報酬を支払ってくれた絵の依頼人に感謝していた私は頭を何度も下げました。
「それはよかった。気には掛けていましたが、安心しました」
この機会を逃せば、胸に迫る想いを告げることは二度とないことは分かっていました。
「――阿川さん…言いにくいことですが、あなたに見てもらいたい作品があります」
「私にですか?」
「はい…」
縋るように頷いた私に、思案した阿川さんの口から出た言葉は、私の切迫した気持ちに応えてくれるものでした。
「そうですね…それでは私の部屋に来ませんか?」

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