夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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朝の秋晴れが東京に近づくにつれ雲行きが怪しくなり、戻った調布の家は、すでに雨に濡れていた。
これ以上バイトを休めないと、急ぐケイをレンはレンタカーを返却がてら駅まで送り、レンも午後の講義に間に合うように電車に飛び乗った。
今週初めて大学に顔を出したレンに、伊東のリゾートマンションを貸した友人は、レンが一緒に旅行に行った相手のことをあれこれ詮索し冷やかしたが、レンが出まかせで、高校時代の男の友人と行ったことを話すと、伸びた無精ひげと長髪のむさ苦しい風貌のレンに、妙に安心したような顔を向け、マンションの鍵と土産の羊羹を受け取った。
レンは大学の仲間にもケイとの共同生活のことは話していなかった。初めこそ感情の伴わない共同生活を送っていたが、二人が関係を持った今は、誰にも話すつもりはなかった。

遮光カーテンを引き、明りを消した暗い教室に映し出されるスライドを見詰め、古典絵画の講義を聞くレンの胸中に去来するのは、伊東で過ごしたケイとのことだった。
妖しいまでに潤んだケイの瞳に恋心を奪われ、同性同士とはいえ、初めて他人と肌を重ね、お互いの興奮した身体を宥めあった刺激的な行為。
教室の暗闇は伊東の夜を思い起こさせ、ケイの悩ましい裸体と、快感に歪む愛くるしい表情が瞼に浮かんだ。
講義のスライドは、バロック期に活動したイタリアの画家、グイド・レーニの宗教絵画を映し出していた。レーニの傑作「ゴリアテの首を持つダヴィデ」「幼児虐殺」に混じり映し出された「聖セバスチャンの殉教」にレンは目を剥き、息を呑んだ。

荒縄で交差する腕を頭上で縛られ、刑の執行に身を委ねる聖セバスチャンの大胆な構図、大理石のような真っ白な素肌、青年の裸体を覆う、腰の周りに緩やかに巻かれ白い布。
弓を入られた痛みとは明らかに違う、天に召されることへの悦びに浸るような恍惚とした表情を浮かべ、遥か天上を見上げるその姿に、レンは脳裏に写し撮った、あの夜のケイの姿態が蘇えった。
性別を曖昧にしたケイの浴衣姿に見惚れ、二人の無常の悦びが目の前にあると判って、抱き合った初めての夜。
薄明かりに浮かぶ、乱れた浴衣から露になったケイの肢体をレーニの絵画に重ねたレンは、激しい鼓動の高鳴りに襲われた。
レンは抑えようのない全身の疼きに脚を何度も組み直し、ノートにラフなクロッキーを描いた。レンはこれからすべきことは何かを直感し、居ても立っても居られなかった。


レンは部屋の真ん中に立ち、目を閉じ深々と深呼吸した。
すぐにベッドの前に座り込み、スケッチブックを拡げ、目の前に横たわる、あの夜のケイの姿態をデッサンしていった。
ケイ、君に夢中だった、あんなの初めてだった。なんだってしたいと思った。
二人のルールなんて一つ残らず破っても構わない。だからケイ、そのまま俺の傍に居てくれ、ずっとそそまま、傍に……。
「ケイ、愛している」

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窓の外は抜けるような爽やかな青い空が広がり、穏やか秋の陽射しが波間に輝いていた。
レンとケイはソファーに身体を沈め、何気ない会話で、食後の和やかな時を過ごしていた。お互いに昨夜のことは口に出すことはなかった。
レンはケイに馴れ馴れしくするわけでもなく、ケイも普段と変わることはなかった。それでも、二人の間には昨日までとは違う空気が生まれていた。
それは同性との性行為を遂げた、気まずさではなかった。お互いの恋慕の情を受け入れた、二人の親密な空気であった。

子供の頃、男子の誰もが経験するように、レンも友人と幼い性器を見せ合い、腹を抱えて大笑いした思い出はあったが、人並みの思春期を過ごしてからは、心と身体に羞恥心を覚えていた。
そんなレンが同性のケイの前で、男の恥ずかしい姿を曝け出すことに迷いはなかった。何よりケイへの燃え上がる熱情が羞恥心を上まわっていた。
想像することもなかった、同性との行為に驚くも、少しも嫌悪など感じなかった。
緊張と興奮で強張らせた身体をケイに慰められ、慈しみ深い愛撫に悶え、すぐに迎えた強烈な絶頂、導かれた激しい射精の衝動に全身を戦慄かせた。
レンの裸に張り付き、我慢できないと追うように射精したケイが愛おしく、レンはケイの身体をきつく抱き締め、共有した性の悦びを実感していた。


無言で見詰めるレンの視線に気付いたケイは、少し照れ臭そうな笑みを見せた。
癖のない柔らかな髪、色白の素肌、整えた細い眉と二重の瞼、小さな唇。レンは今日ほど、ケイの顔をまじまじと見詰めたことはなかった。
共同生活を始めてから、数え切れないほど、顔を合わせてはいるが、今まで隠されていたのだろうか、それとも鈍感だったのか、少女とも見間違えるケイの容姿に気付くことはなかった。
レンは以前からケイの人間的な魅力に惹かれてはいたが、今ではセクシュアルな魅力も感じてしまっている。
レンの手の平に残るケイの滑らかな肌触り、抱き締めた身体のリアルな体温と存在感。
今朝のシャワーでも消えることのない、股間を這うケイの悩ましい唇の感触、初めて男同士で性器を擦り合わせたことの異常な興奮、ケイの性器の熱と硬さ、そして、下腹を濡らしたケイの精液の滴り。
昨夜の行為を蘇えらせたレンは、身の置き所を無くすほどの感情の昂りに襲われた。

レンの高揚が伝わったのだろう、ケイはソファーの上で左膝を崩し、女の子のように横座して科を作った。
ケイの妖しく潤み始めた瞳に誘われ、レンはケイの隣に移動して、燻りだした身体の距離を縮めた。
無口になった二人は言葉の代わりにソファーの上に拡げた、触れ合う指先で、お互いの気持ちを伝え合った。
裸の身体を絡めるように、レンの指がケイの指の間を滑らすと、ケイの細い指もそれに応え、レンの指を締め付けた。二人は何を望み、何を求めているか、二人の心が重なり合う指先からも感じていた。
照れながらも隠さず、嬉しいという表情を向けるケイに、レンは息苦しくなるような愛おしさに、熱烈な恋に落ちていった。


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二人の密かな憧憬が渇望に変わり、情欲が迫る静かな部屋で、レンは緊張と興奮で思うようにならない自分自身をケイに任せるしかなかった。
ケイに性別を超えて湧き上がる欲望を自分の中で認め、それを悦ぶケイの好意と興奮を感じ取ったレンは、求めてきたケイの唇を受け入れた。
きつく抱き合い、夢中で交わす深い口付けに、ケイが性的好奇心を満たす対象ではなく、恋い焦がれる存在だったことを、レンは改めて気付いた。
ケイに帯を解かれ、はだけた胸を這うケイの濡れた唇、下腹を滑る柔らかな手の悩ましさ、そして、恋する者同士が求め愛おしむように、トランクスの中に伸ばしたケイの指先が性器に触れ、やんわりと握る手の感触に耐えられずに、レンの性器はすぐに勃起してしまった。
初めて恋人に性器を触られたことに戸惑うも、官能を刺激され、否応なしに、男の本能を剥き出しにした自分の性器が恥ずかしくて、羞恥心で顔を背けるレンの初々しい姿。
ケイはレンの欲望を手の中で感じ取り、嬉しさで身も心も震えた。

ケイはレンを辱めることがないように、レンの浴衣の裾で性器を隠すようにして、トランクスを脱がせた。
ぷるんと飛び出した陰茎。性行為の経験のない青年の、つやつやした桃色の亀頭を膨らませていた。
ケイはレンの股間に屈み込み、柔らかな陰毛を慈しむように撫で、湿り気を帯び、反り返った陰茎に指を絡め、柔らかくした唇と舌を添わせた。
「あっ、ケイ!」
驚いて顔を起こしたレンは、瞳を妖しく潤ませ、縋るような眼差しを向ける、ケイの行為を許すしかなかった。
緩く開いた唇を舌で濡らし、張った亀頭を挟み、唾液を溜めた口腔に頬張り、舌を絡めた。初めての口淫、自分自身では経験することのない刺激で、股間の奥から湧き出した快感の源泉に、腰を跳ねらせ、喘ぐ愛しいレン。
唇の隙間から垂れるケイの唾液が陰茎に滴り、陰毛までも濡れた。
口の中に漏れ出したレンの体液の雫を舌先で感じ取ったケイは、悦びで胸が締め付けられた。昂る性感にレンは、呻き下半身を悶えさせ、弱音を吐いた。
ケイの周到な唇の愛撫から逃れた、レンのはち切れそうな陰茎は、波打つ下腹の上で、狂おしいまでに脈打っていた。


強い刺激に魘される身体をどうにか起こしたレンは、ケイの脇を抱えて身体を引き寄せ、背中から抱き付いた。
浴衣の衿元からそっと手を入れ、汗ばむ胸に指を這わせ、柔らかな乳房を揉み、小さな乳首を親指と人差し指で摘んでは弄った。うっ、と声を詰らせ、指の間で硬く尖るケイの乳首。
レンは自分の拙い愛撫に反応する、ケイが嬉しかった。兵児帯の結び目を解き、弛んだ浴衣の衿元を拡げ、ケイの細い肩が露になった。
レンは唇をうなじから肩口、鎖骨に這わせ、幼女のように膨らむ乳房を抱き締めた。首をかしげて頬を寄せ、目を閉じたケイの唇を塞ぎ、ケイの震える舌を強く吸った。
ケイは甘い溜息を吐き、レンの腕の中で身体をくねらせ、割れた裾から艶めかしい白い腿が露になり、奥の下着が覗いた。


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