夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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ゴール

気ばかり急いて一向に進まない。呼び出しのメールがキックオフまで30分を切った。救いなのは、これが小川課長と出来る最後の仕事ということだろうか。52歳独身。素晴らしく有能であるわけでもなく、弁が立つわけでもない、ただの小父さん。勤続30年の最後のご奉公か、来週には浜松に栄転?が決まっている。先週末行われた送別会。女子社員から受け取った花束に感極まっていた小川課長。朴訥な別れの挨拶に誰もが貰い泣きしそうだった。
「吉田君、後は私がやるからから、早く帰えりなさい」
「悪かったね、私のミスで晩くまで残業させて」
「さあ、帰えった、始まっちゃうよ」

部屋を駆け下り、車道に飛び出して、無理やりタクシーを止め、仲間の待つスポーツバーへ急いだ。カウンターに陣取るサムライブルーのユニフォームの仲間と、遅れたお詫びのハイタッチ、急いでトイレでスーツをユニファームに着替えた。運命のゲームはすでに始まっていた。
もし日本が勝ったら・・
神様のお導か、結果は僅差で日本の勝ち。勝利の喜びと興奮で大騒ぎする店をそっと抜け出し、コンビニの前でタクシーを拾った。

守衛のおじさんは僕のユニフォーム姿に驚いたが、首から提げた社員章に苦笑いし、ゲームの結果を聞いて大いに喜んだ。非常灯だけの暗い廊下を抜け、静かに部屋のドアを開けた。蛍光灯を消した暗い部屋の窓際にデスクライトが一つだけ点り、小川課長がパソコンから顔を上げた。
「驚いた!吉田君どうした、忘れもの?」
「はい、大事なことを忘れて」
「君のその顔は勝ちましたね」
「1-0で日本が勝ちました」
「よかった」
小川さんはキーボードから手を上げ小さなガッツポーズを作った。僕はカバンから取り出した缶ビールを小川さんに手渡し、二人だけで真夜中の祝杯を上げた。

「本当に私は駄目な上司だったね。君には最後まで迷惑かけて、飛ぶ鳥、後を濁すだね」
「いいえ、そんなこと」
「手伝いましょう」
「もう済んだから心配要らないよ」
「でも・・」打ちかけの画面に目を向けた。
「ああ、これ・・実は君への手紙」
「えっ、僕にですか?」
「口下手で上手く云えなくて」
「見てもいいですか?」
「まあ、今夜みたいなことはもう無いだろうから」
小川さんは眼鏡を外し、よろりと立ち上がると、外を覗き見するようにブラインドを少し押し下げ、背中を向けた。

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あなたのロストラブ


「あなたのロストラブ」

一雨ごとにって感じで、薔薇が湿って、その湿りの中で、何かが崩れ、何かが始まろうとしています。メイ子です。
今晩は吉沢和子です。今夜も「あなたのロストラブ」でお過ごしください。
今夜は、放送、初めて男の子のお客様が、スタジオにお見えになっています。
男の子に可愛いなんて、言ってはいけませんでしょうが、和子さん、キュートって言うのかしら、とても可愛い、ボクちゃんがいらっしゃっています。

今晩は
「こんばんは・・」
緊張してますか?
「ええ、かなり緊張しています」
お名前は?
「ヒロと言います」
おいくつ?
「先月二十一歳になりました」
学生さん?
「介護の専門学校に通っています」

毎週、番組に、沢山のお便りを頂いております。女性からのお便りがほとんどですけれど、その中ではじめて、男の子からのお便りで、ちょっと、驚いたんですけれど、読ませて頂いて、もうひとつの愛の形だと納得したら、これは正しく、女の子からのお便りだと、思いました。

お手紙に書かれている、Sさんとは何処でお知り合いになったの?
「ネットです」
インターネットってことかしら、ツイッターとか何とかブックとか言うのかしら?
「ええ、そうです。僕と同じような人が登録するサイトで知り合いました」
私は良く知らないんですけれど、お互い顔を合わせることはないんでしょう?
「はじめはそうです。コメントを残したり、メールをやり取りして」
どんなメールを?
「彼から、僕の写真を見て、褒めてくれて」
このお写真がそうかしら?
「はい」

先程、和子さんと見せてもらいましたが、可愛い女性的な格好をしてらっしゃるのね。
驚いたって言ってはヒロ君に失礼だけれど、女の子と間違えられてもおかしくないような、それで?
「お礼のメールを返しました。照れ臭かったけれど、嬉しいって」
すぐにSさんから返事が来たのね?
「すぐではありませんでしたが、メールをくれました」
「一度、会って話がしてみたいなって、書いてありましたが、無理な誘いではありませんでした」
そう、Sさんはヒロ君に、相当気を遣ったのかしらね。
「そうだと思います。色々な人からメールを貰いますが、直接的な内容ばかりで」
直接的って身体を求めること?
「ええ、そんな気は無かったので、怖くて、Sさんもその一人かと思って、誘いに返事をすることが出来ませんでした」
でも、何かが二人の間に起こったのね。二人を引き寄せるようなことが。
「しばらくして、むしゃくしゃすることがあって、サイトに殴り書きして、サイトの更新を投げ出したのがきっかけでした」
「すぐに、Sさんからメールが届いて、慰めの言葉が綴ってあって、でも僕は、返事も出さなかったのに、僕のことをずっと見ていてくれていた、彼の優しさにほだされて、僕から誘ったんです」
それでお会いしたの?
「普段のままで行くけれど、それで良ければって」
普段のままって、今夜のような、普通の男性の格好ということかしら?
「はい、女の子の格好して外出なんて、絶対に無理だと思っていましたから。Sさん全く気にしていないって、食事に誘われました」

初めて、会ったSさんの印象はどうでした?
「写真は見ていたんで、すぐに分かりました。僕より年上で、仕事の帰りだったんで、スーツ姿で、落ち着いた様子でした」
お話して、いかがでした?
「もう普通の会話で、友人とおしゃべりしているような、年上の友人が出来たような、へんな話には、ならなくて、構えていた僕は、なんだか恥ずかしくなって」
Sさんは大人で、紳士で、白馬に乗った王子様のような(笑)それで、お付き合いが始まったのね?
「はい。それからも何度か会って・・」

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新しい夜

些細なことのすれ違い
売り言葉に買い言葉
時間が歪み
曲がってしまった二人の関係

会えなくなって、独りがいいと強がっても
鳴らない携帯は惨めな玩具
どうして、なぜ、こんなことに
でも僕の気持ちは

長い呼び出し音
無言の通話
絞りだした一言
「逢いたい」

お洒落した君と向かい合い、無言の食事
最期の晩餐を覚悟した
人気のない駐車場に停めたクルマ
切なさが心まで冷たくて
エンジンに火を点す

「止めて」
「お願い、止めて」
哀咽する君を引き寄せ
震える唇の柔らかさ
溢れる想いで潤む身体
後悔させない、もう離さない
もう一度、二人だけの夜を
新しい夜を

新しい夜を

寂しい夜

1973年の曲で、元歌は白人James Taylor。当時は、黒人が白人の曲を歌うことに、まだ抵抗があった時代。でもオリジナルより断然いいです。長いキャリアのアイズレー・ブラザーズの曲の中で、私のフェイバリット・ソングは、この曲と心のハイウェイに尽きます。リクエストありがとうございます。


「寂しい夜」 DON'T LET ME BE LONELY TONIGHT - ISLEY BROTHERS


意地悪したり
優しくしたり
嘘を付いてもいいけど
強く抱き締めて
さよならは朝の光をみてから
だから、ひとりにさせないで

また会うって言って
あなたに会えて本当によかった
終わりだなんて言わないで
だめ、だめよ
今夜はひとりにしないで

出て行けばいいじゃない
好きにすればいいのよ
私が跪くところなんか見たくないのよ
もう、どうしたらいいの あなたの心は裂けたまま
私の思いをめちゃくちゃにして

意地悪したり
優しくしたり
嘘を付いてもいいけど
強く抱き締めて
さよならは夜が明けるまでは
だから、ひとりにしないで
ひとりにしないで
だから、だから、お願い
ひとりにしないで

今夜はひとりにしないで

怪訳 アル





雨宿り


ロビーを抜けエレベーターを18階で降りた。静かな廊下を逸る気持ちで進み、教えられた番号の部屋の前に立ち止まり、一呼吸してドアを叩いた。そっと開いたドアの先に、花びらがほころぶような笑顔が覗き、私の鼓動は高鳴った。

いつにも増して天候が不安定な東京の梅雨。ゲリラ豪雨と言うのだろうか、突然の激しい雷雨に逃げ込んだデパートは雨宿りの人々でごった返していた。お洒落の取り柄のない、冴えない中年男には、場違いな売り場を手持ち無沙汰に冷やかし、ふと立ち止まったブランドショップのウインドの前で、飾られたバッグを覗く青年の後姿に目が止まった。背丈、年恰好、まさか・・
何気なく青年の脇に廻った私は、左顎下の小さな黒子を見付け、確信して声を掛けた。
「吉岡君?」振り向いた青年の怪訝な顔が、ぱっと華やいだ。
「えっ、あっ!さ・・沢渡さん!」
「やっぱり吉岡君だった」

私の所属する課にバイトに来ていた大学生の吉岡成美。上京して一人住まいの頑張り屋で、人懐こい吉岡は課の誰からも可愛がられていた。小柄で華奢な吉岡の容姿と、醸す雰囲気に触発され、私は上司にあるまじき、秘めた想いを募らせていた。忘れもしない冬の晩、忘年会で酔いつぶれた吉岡を部屋まで送り、汚した衣類を脱がせ介抱した。私は着替えを探す為に、何気なく開けたクローゼットに仕舞われた、女性の下着の数々を目にした。吉岡は、彼女の私物だと言い訳したが、吉岡の要領の得ない返答に、私は問い詰めることなく、吉岡の性癖に理解を示した。隠していた秘密を私に見破られ、はじめ吉岡は泣きじゃくったが、私も同じ色を持っていることを告白すると驚き、想いを打ち明けた私に吉岡は自分の性癖を語った。それから、すぐに二人の関係が始まった。吉岡の若く果てることのない欲望と性欲に、私は溺れ蜜月が続いたが、私の急な移動と吉岡の卒業と帰郷で生じた行き違いで、自然消滅してしまった。
デパートの喫茶室で向かい合い、5年の空白を埋めるように思いの丈を打ち明け合い、燻りだした二人の心。電話番号を交換し、一時の別れを惜しんだ。


仄暗いルームライトの下で髪型を変え、含羞み頬を赤らめる吉岡。吉岡の細い腕を掴んで引き寄せ、瞼に頬にそして唇に再会のキス。すぐに時間はあの頃に戻り、蕩けだした二人の身体。私はジャケットを脱ぎ捨てネクタイを緩めた。
ベッドに崩れた吉岡を跨ぎ、白いブラウスをグレーの細いパンツから引き抜き抜いた。肌蹴た色白の胸に黒いレースのブラジャーが食い込んでいた。ウエストのファスナーを下ろす私に、腰を浮かせてパンツを脱ぐのを手伝う吉岡。あの頃と変わらない見事な肢体に息をのみ、ブラジャーとお揃いの黒いレースのショーツに思わず手が止まった。
「これは・・」
「沢渡さんにプレゼントしてもらった下着です」
「僕の宝物」
「成美・・」私は夢中で成美を抱き締めた。

初めて私に下着姿を見せ、羞恥心で身体を震わせていたあの日、私の手の平の中で欲望を迸らせ、初めてキスしたあの晩、初めて抱き合ったあの日、初めて一緒に眠ったあの夜、ひとつひとつの記憶が蘇えった。互いの興奮した身体を擦りあい、私を誘う、濡れて膨らむ成美の股間に我慢できなくなり、思い出のショーツを引き下ろした。包皮を反転させた真っ赤な陰茎が飛び出し、滴る体液を吸い泡立つ、手入れされた陰毛に指を絡めた。
「可愛いよ、成美」
「沢渡さんと会えなくなって」
「虚しくて・・」
「もう、やめようと・・」
「でも、もう一度、もう一度だけって・・願いが叶って、あの雨宿りの日から、沢渡さんが来る、さっきまで、ずっとお手入れして」
「成美」
脈打ち反り返る成美の陰茎をそっと握り、唇でゆっくり扱いた。私の腕を握り締め涙声で喘ぐ成美。
「駄目です」
「ずっと我慢してきたの」
「ひとりで」
「でも、もう」
「もう・・」
快感に悶え、迫る絶頂に捩れる成美の身体を引きずり寄せた。
「あっ!」成美は全身を激しく震わせ、長く満たされなかった寂しさを私の口の中に吐き出し、私はあの時の自分の至らなさを悔い、成美に許しを請うように成美の想いの全てをのみこんだ。


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