夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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無精髭が伸びた男と茶髪にした優男の二人のルームシェアに、難色を示した不動産屋に、なんと、年下のケイは家賃の半年分を前払いし、レンとケイは二人で、調布郊外の一軒家に住むことになった。
行き付けの食堂で知り合った二人は、偶然にも笹塚の同じワンルームマンションに住んでいることに驚き、近づく部屋の契約更新にレンが頭を悩ませていることを話すと、もう少し広い部屋に移りたいと考えていたと言うケイは、それならば、二人で住まないかと、レンに話を持ちかけたのだった。

レンは一浪までして、無理を言って東京の美大に通うことを許してもらった手前、仕送りの増額を頼むことは心苦しく、ケイの提案は渡りに舟だったが、一人住まいに慣れた生活で、果たして他人と住むことが出来るか、ましてや、知り合って間が無い二人が、上手く共同生活を送れるのか不安だった。
そんなレンの心配を察したように、ケイは笑顔と強引さで、躊躇するレンを説き伏せ、新しい生活に引っ張り込んでいった。
調布飛行場近くの平屋で、建物も設備も年季がはいっていたが、板張りのダイニングとリビングを挟んで、ドアで仕切られた二つの個室が理想に合っていたし、レトロな雰囲気を醸す、玄関脇に植えられた棕櫚の樹を二人は気に入っていた。

バイトの傍ら、調理師学校に通うケイは、朝早く出掛け、夜遅くに帰宅することが多く、笹塚の狭い部屋では思うように捗らなかった、
絵画の課題制作に没頭するレンは、留守番役が多かったが、二人揃った休日には、ケイは習ってきた料理をレンに味見させ、レンは制作途中の作品を披露しては、ケイに感想を求めた。
そして、天気の良い日は、近くの野川公園に散歩に出掛け、二人は将来の夢を語り合い、友人として相手を温かく思いやる気持ちが芽生えていった。


先日の雷雨を境にうだる様な残暑が和らぎ、朝晩の涼しさが秋の到来を感じさせた。国道と首都高に囲まれた、騒音激しい笹塚のマンションの部屋では聞くことが無かった、虫の音が聞こえる深夜、ドアに差し込まれた鍵の音で、レンは目を覚ました。
いつになく晩く帰宅したケイは、そのまま自室に入り、しばらくすると、ケイの啜り泣きにレンは驚き、身体を起こした。
共同生活を始める決め事の一つに、お互いのプライベートなことには立ち入らないことを約束はしてはいたが、同居人のレンの存在を意識しても、漏れる悲痛な泣き声に、レンは居ても立っても居られず、お節介を承知で、急いでケイの好きなカフェオレを沸かし、ケイの部屋を慎重にノックした。

「ケイ、カフェオレ淹れたから、一緒に飲まないか?」
すぐに返事が無いことは判っていた。理由は何にしろ、泣き声を聞かれたことは、ばつが悪いし、まして歳も変わらない同性に聞かれたことの恥ずかしさは、レンにも痛いほど判っていた。
レンは明りを消していたリビングの床に腰を下ろした。カーテンの隙間から、不穏な青白い月明かりが、小さなテーブルに並べたカップを照らし、耳を澄ませても、ケイの気配は聞こえず、庭で鳴く、重い気分を騒がす、虫の音だけが部屋に木霊していた。


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次の日からも、ケイは、普段どおりに出掛け、帰宅し、何事もなかったように振舞い、辛い素振りさえ見せることはなかった。
しかし、ふとしたことで取り乱し、悲しそうな表情を浮かべ、涙ぐみ、自室に篭ってしまった。
レンはケイが同性愛者だったことに驚きはしたが、自分がイメージしていた、同性愛者とはケイは違っていた。
ごく普通の、大学に居る仲間と全く変わることは無く、考え方も価値観もレンと変わることはなかった。
そのことより、一緒に暮らし始めて、レンはケイの目標に向う、頑張りに触発されていた。
プライベートに立ち入らない約束事を決めはしたが、敬愛する同居人の哀れな姿を見ることが、レンには忍びなかった。

誰も辛い過去を忘れることなど出来はしない。「時間が解決する」と人は言うけれど、眠れぬ夜に子守歌があるように、傷ついた心には癒しが必要で、何かの切掛けで、立ち直っていけることをレンは判っていた。
レンは、考えあぐねた末、断られることを覚悟の上、ケイを旅行へ誘った。傷心旅行と言えば聞こえは良いが、昨年の夏休みに招かれた、同じ科の仲間の父親が所有する、伊東のリゾートマンションを、拝み倒して借りたことをケイに話した。
今のレンが、傷ついたケイに手を差し伸べてやれることは、旅行に連れ出し、日常から離れて、少しでも、気を紛らわせてもらうことが精一杯だった。
出掛けることを渋ったケイだったが、気兼ねの無い、気ままな旅行だからと、説得するレンの気遣いにケイは折れた。
誘いに感謝し、決まり悪そうに含羞むケイの姿に、レンは心の中で芽生えた、言葉に出来ない淡い想いを打ち消すことはしなかった。


レンの運転するレンタカーは伊豆の海岸線に入り、前方に広がる海の雄大な景色に、助手席のケイは嬌声上げた。
レンはしばらくぶりに見た、ケイの明るい笑顔が嬉しかった。夏休みも終わり、平日のリゾートマンションは訪れる人も無く、専用の駐車場は、従業員の通勤用だろう、地元ナンバーのクルマが止まっているだけだった。
最上階の部屋の眺望は素晴らしく、伊東港が眼下に見渡せ、ケイの喜ぶ姿に、レンは安堵した。

「綺麗な景色。海の香りがする!」深呼吸するケイの仕草にレンは笑った。
「いいなあ、こんな所にずっと居られたら」
「でもケイ、四日間は僕たちのものだから、ゆっくりすればいいさ」
「そうだ、まずはウエルカムドリンクで乾杯だな」
レンはキッチンに備え付けてられた立派な食器棚から、ワイングラスを見つけ、持参したクーラーボックスからスパークリングワインを取り出し、静に栓を抜いた。

その晩は伊東の街に出掛け、新鮮な魚介料理で、夕食を済ませ、調理師を目指すケイは目を輝かせて地場の食材に買い入れ、明日からはケイが部屋で料理することになった。
あいにくその日は、大浴場の清掃日に重なり、レンはケイの勧めで、先に部屋の小さな風呂で温泉に浸かり、運転の疲れで、早々にベッドに倒れこんだ。
レンの可愛い寝姿を見届けたケイは、浴室の鏡の映る、男から受けた仕打ちが残る、情けない身体を後悔し、独り風呂場で涙を流した。


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夕飯の支度をするケイを残し、レンは地下の大浴場で温泉気分を満喫していた。
今週の宿泊客は、レンとケイの一組だけで、レンは広い温泉を独り占めし、贅沢な入浴を楽しんだ。
レンは久しぶりに味わうケイの手料理に大満足だった。食卓狭しと並んだ料理に舌鼓を打つ、レンの旺盛な食欲が、ケイには嬉しかった。
片付けはレンも手伝い、二人は、少し強いお酒を片手に、応接間で向かい合い、レンが戸棚から見つけてきた、遊び古されたオセロに興じた。二人は、子供の頃に戻ったように、ゲームの駆け引きに一喜一憂し、他愛の無いレンの冗談に、頬をほんのり赤く染めたケイは笑った。
二人だけの旅行ならではの、ゆったりとした時間の流れは、ケイの心を癒し、ケイの笑顔に目を細めたレンの心には、言葉に出来ない淡い想いが、また一つ芽生えた。


ケイは付き合っていた男と、旅行に出掛けたことは一度も無かった。
男の仕事帰りに待ち合わせ、食事し、同性でも断られないホテルに入った。フロントの好奇な視線と部屋の饐えた匂いが嫌だったが、ケイの行為で悦ぶ男が嬉しく、ケイも男の愛撫に、悦びで身体を震わせた。
ケイは、最愛の男との長い夜を熱望したが、いつも多忙を口にし、時間を気にする男を寂しく見送っていた。
ケイは男との旅行を夢見ていた。二人のことなど、誰も知らない旅先で、普段とは違う、二人だけの時間を過ごすことを憧れていた。
男はそんなケイの想いを知ってか知らぬか、旅行の誘いをやんわりと断り、ケイも無理に誘うことはしなかった。ケイは男の前で、寂しさを顔に出すことは一切しなかった。
男に嫌われたくなかった。男に心底、惚れていた。男が旅行に行けない、本当の理由など、あの時のケイには考えも及ばなかった。

そんなケイが、同じマンションに住むレンと知り合った。
お互いの部屋を行き来するようになり、部屋の不満が一致し、二人の理想に近い家で、感情を交えず、型通りの共同生活を始めた。
ケイは同性愛者の自分とは違う、ストレートな指向の、レンの考えや行動が新鮮だった。共同生活を知った男は、ケイに妙に寛容で、関係がぎくしゃくすることはなかったが、「しばらく逢えない」と、ケイに連絡をよこした。
ケイは自分が始めたレンとの生活が、男の癇に障ったことに気がとがめ、すぐに、涙ながらの謝罪と後悔の連絡を取ったが、男は、ただ「忙しくて逢えないと」一方的に繰り返すばかりだった。

男への不審が湧き、男の新しい恋人の妄想に神経が磨り減り、一途な想いがケイを駆り立てた。
男の言葉の真意が知りたくて、取り憑かれたように男の後を追った。そして真実を知ってしまったケイは大きな衝撃を受け、立ち竦んだ。
悲しみと失望に襲われ、その日はどうやって、部屋まで戻ったのかも思い出せない。虚脱感に苛まれ、悩み、迷った。
本当のことなど知らなければ良かったと、自分の愚かな行動を責め、悔やんでも、現実を受け入れるしかなかった。

ケイは別れを決意し、男を呼び出した。男は普段とは違うケイに慌て、男への当てつけに、在りもしない新しい恋を理由にした、ケイの別れ話に狼狽えたが、寂しい男を演じ続け、その哀れな姿にケイも男への未練と、一縷の望みが捨てきれなかった。
しかし、ホテルの部屋に入るなり、豹変した男はケイを、いきなり張り倒し、脳震盪を起こしたケイに跨り、乱暴に全裸に剥き、引きちぎったドライヤーのコードで腕の自由を奪った。
眉を吊り上げ形相を変えた男は、床を這いずり逃げ惑う、ケイの背中と尻を靴ベラが曲がるまで乱打ちし、泣き叫ぶケイの髪を掴み、平手打ちした。
ぐったりとしたケイの身体を二つに折り、「忘れないようにしてやると」上を向いた肛門に唾を吐き、凶器のように尖らせた性器を充てがい、一気に突き刺した。全身を貫く激痛、恐怖で声も涙も嗄れ、ただ喘ぐだけのケイに、容赦なく、自分勝手な欲望を打ち込んだ。
ケイの性器に当り散らし、周到な責めに反応してしまうケイの性に、薄ら笑いを浮かべる男。ついに我慢の限界が越え、ケイは怒りを爆発させた。
男の秘密を暴露し、罵り、詰った。驚きで息を呑む、男の身体が止まった。明らかの脅えた男は、「なにかあったら、只じゃ置かない!」と、乱暴な捨て台詞を吐き、部屋を出て行った。男との関係が、最悪な結末になったことに、ケイは声を上げて泣いた。

最愛の男の裏切り、男への未練を打ち砕く屈辱、怒りを上まわる絶望に、泣くことしか出来なかった。
どうにか電気コードを外したケイは、よろけながらベッドに倒れこんだ。しかし、ベッドの柔らかさと温もりは残酷で、仲睦ましかった男との蜜月を蘇えらさせ、さらにケイの心を痛めつけた。
「死にたい・・」自分の存在意義を見失ったケイは呟いた。

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湯煙が立ち込める、薄暗い大浴場は、湯がこんこんと湧き出し、大きな湯船に溢れていた。レンは誰も居ない広々とした温泉に、ケイと一緒に入ることが嬉しくて、子供のように浮かれ、飛び込んだ。
泡立つ湯に伸ばした身体が勢い余り、顔まで沈み、慌てて湯船の真ん中で胡坐をかき、苦笑いした。大名気分とはこういうことを言うのだろう、贅沢な気分に浸っていた。
しばらくして、重いガラス戸が開き、洗い場で掛け湯したケイは、タオルで身体を隠し、レンから離れて湯船に浸った。

ケイはレンの視線を避けるように顔を逸らせ、顔を見合わせることはなかった。二人の間に気まずい雰囲気が漂い、それに耐えかねたレンは、当たり前のように股間を隠すことなく立ち上がり、湯船の中で膝を抱え、身体を丸めたケイの脇に身体を沈めた。
共同生活を始めて、レンもケイも入浴後、下着姿で家の中を歩き回ることはなかった。
「裸のつきあい」とは、一緒に風呂に入ることでも、裸を見せることでもないことは、レンも知っていた。
お互いの素顔を見せて本音で語り合うことだと、知ってはいたが、昨年の夏休み、同じ科の仲間とこの温泉に入り、ふざけ合い、笑い転げ、仲間同士の親交を得たように、ケイとの友情がより深まることを期待していた。

「ケイ、いい湯だろ?」
「……」
ふて腐れたように顎まで湯に浸かったケイは、返事をすることはなかった。
レンは温泉に無理やり誘ったことを少し後悔した。
「ケイ、ごめん。やっぱり温泉はだめか……」
「ううん、レンさん。僕、どうしたらいいのか……レンさんに嫌われたくない。だけど、だけど、レンさん、判んない!」
自分の考えと、今夜の成り行きに錯乱したケイは突然、湯船から逃げるように立ち上がり、足を滑らせた。
レンは咄嗟に腕を延ばし、バランスを崩したケイを支え、思わず目にした、背中の幾筋もの蚯蚓腫にたじろいだ。
「ケイ、お前……」
「こんな酷い身体、大好きなレンさんに見せたくなかった」
レンを押しのけようとするケイをレンは抱え込んだ。背中にそっと触れ、痛々しい傷を労わるように擦る、レンの思い遣りと優しさに、ケイの動きが止まった。
思ってもいなかったケイの言葉にレンは狼狽えたが、ケイを裏切り、傷つけた男への激しい憎悪、健気なケイを夢中にさせた男への強い嫉妬、そして心の奥で膨らみ続ける、言葉に出来ない気持ちは、友情を越えたものであることをレンは認めた。

「――ケイ」
「俺も好きだ」
レンの腕に力が篭り、ケイを抱き締め、レンの告白にケイはレンにしがみ付いた。
ケイの股間がレンの身体に触れたが、レンは嫌ではなかった。濡れた髪、潤んだ瞳でレンを見詰める、ケイの表情が和らいだ。
レンはケイの頬に唇を当て、小さな唇に重ねた。レンは生まれて初めての口付けが同性であることに抵抗など無かった。
人を敬愛し好きになる、初めて恋愛感情が湧いた相手がケイで、どういう訳か、同性だっただけのこと、先のことなど、何も考えることはなかった。
今の自分の正直な気持ちがそうさせていた。
背中を擦っていたレンの手が、本能の導きに誘われ、細い腰に腕を廻し、躊躇いがちにケイの尻臀を撫でた。
レンの手が触れるや、驚いたように尻臀を強張らせさせたが、すぐに安心したように筋肉が弛緩した。
少女の尻を思わせる、丸く小さな形、滑らかな肌触り、柔らかな肌の弾力がレンの本能を刺激した。

「ケイ、逆上せそうだ」
レンは昂る身体をケイに悟られることが恥ずかしかった。ケイを屈辱するような気がした。心残りを引きずるように、汗だくの二人の肌がゆっくりと離れた。


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二人の密かな憧憬が渇望に変わり、情欲が迫る静かな部屋で、レンは緊張と興奮で思うようにならない自分自身をケイに任せるしかなかった。
ケイに性別を超えて湧き上がる欲望を自分の中で認め、それを悦ぶケイの好意と興奮を感じ取ったレンは、求めてきたケイの唇を受け入れた。
きつく抱き合い、夢中で交わす深い口付けに、ケイが性的好奇心を満たす対象ではなく、恋い焦がれる存在だったことを、レンは改めて気付いた。
ケイに帯を解かれ、はだけた胸を這うケイの濡れた唇、下腹を滑る柔らかな手の悩ましさ、そして、恋する者同士が求め愛おしむように、トランクスの中に伸ばしたケイの指先が性器に触れ、やんわりと握る手の感触に耐えられずに、レンの性器はすぐに勃起してしまった。
初めて恋人に性器を触られたことに戸惑うも、官能を刺激され、否応なしに、男の本能を剥き出しにした自分の性器が恥ずかしくて、羞恥心で顔を背けるレンの初々しい姿。
ケイはレンの欲望を手の中で感じ取り、嬉しさで身も心も震えた。

ケイはレンを辱めることがないように、レンの浴衣の裾で性器を隠すようにして、トランクスを脱がせた。
ぷるんと飛び出した陰茎。性行為の経験のない青年の、つやつやした桃色の亀頭を膨らませていた。
ケイはレンの股間に屈み込み、柔らかな陰毛を慈しむように撫で、湿り気を帯び、反り返った陰茎に指を絡め、柔らかくした唇と舌を添わせた。
「あっ、ケイ!」
驚いて顔を起こしたレンは、瞳を妖しく潤ませ、縋るような眼差しを向ける、ケイの行為を許すしかなかった。
緩く開いた唇を舌で濡らし、張った亀頭を挟み、唾液を溜めた口腔に頬張り、舌を絡めた。初めての口淫、自分自身では経験することのない刺激で、股間の奥から湧き出した快感の源泉に、腰を跳ねらせ、喘ぐ愛しいレン。
唇の隙間から垂れるケイの唾液が陰茎に滴り、陰毛までも濡れた。
口の中に漏れ出したレンの体液の雫を舌先で感じ取ったケイは、悦びで胸が締め付けられた。昂る性感にレンは、呻き下半身を悶えさせ、弱音を吐いた。
ケイの周到な唇の愛撫から逃れた、レンのはち切れそうな陰茎は、波打つ下腹の上で、狂おしいまでに脈打っていた。


強い刺激に魘される身体をどうにか起こしたレンは、ケイの脇を抱えて身体を引き寄せ、背中から抱き付いた。
浴衣の衿元からそっと手を入れ、汗ばむ胸に指を這わせ、柔らかな乳房を揉み、小さな乳首を親指と人差し指で摘んでは弄った。うっ、と声を詰らせ、指の間で硬く尖るケイの乳首。
レンは自分の拙い愛撫に反応する、ケイが嬉しかった。兵児帯の結び目を解き、弛んだ浴衣の衿元を拡げ、ケイの細い肩が露になった。
レンは唇をうなじから肩口、鎖骨に這わせ、幼女のように膨らむ乳房を抱き締めた。首をかしげて頬を寄せ、目を閉じたケイの唇を塞ぎ、ケイの震える舌を強く吸った。
ケイは甘い溜息を吐き、レンの腕の中で身体をくねらせ、割れた裾から艶めかしい白い腿が露になり、奥の下着が覗いた。


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窓の外は抜けるような爽やかな青い空が広がり、穏やか秋の陽射しが波間に輝いていた。
レンとケイはソファーに身体を沈め、何気ない会話で、食後の和やかな時を過ごしていた。お互いに昨夜のことは口に出すことはなかった。
レンはケイに馴れ馴れしくするわけでもなく、ケイも普段と変わることはなかった。それでも、二人の間には昨日までとは違う空気が生まれていた。
それは同性との性行為を遂げた、気まずさではなかった。お互いの恋慕の情を受け入れた、二人の親密な空気であった。

子供の頃、男子の誰もが経験するように、レンも友人と幼い性器を見せ合い、腹を抱えて大笑いした思い出はあったが、人並みの思春期を過ごしてからは、心と身体に羞恥心を覚えていた。
そんなレンが同性のケイの前で、男の恥ずかしい姿を曝け出すことに迷いはなかった。何よりケイへの燃え上がる熱情が羞恥心を上まわっていた。
想像することもなかった、同性との行為に驚くも、少しも嫌悪など感じなかった。
緊張と興奮で強張らせた身体をケイに慰められ、慈しみ深い愛撫に悶え、すぐに迎えた強烈な絶頂、導かれた激しい射精の衝動に全身を戦慄かせた。
レンの裸に張り付き、我慢できないと追うように射精したケイが愛おしく、レンはケイの身体をきつく抱き締め、共有した性の悦びを実感していた。


無言で見詰めるレンの視線に気付いたケイは、少し照れ臭そうな笑みを見せた。
癖のない柔らかな髪、色白の素肌、整えた細い眉と二重の瞼、小さな唇。レンは今日ほど、ケイの顔をまじまじと見詰めたことはなかった。
共同生活を始めてから、数え切れないほど、顔を合わせてはいるが、今まで隠されていたのだろうか、それとも鈍感だったのか、少女とも見間違えるケイの容姿に気付くことはなかった。
レンは以前からケイの人間的な魅力に惹かれてはいたが、今ではセクシュアルな魅力も感じてしまっている。
レンの手の平に残るケイの滑らかな肌触り、抱き締めた身体のリアルな体温と存在感。
今朝のシャワーでも消えることのない、股間を這うケイの悩ましい唇の感触、初めて男同士で性器を擦り合わせたことの異常な興奮、ケイの性器の熱と硬さ、そして、下腹を濡らしたケイの精液の滴り。
昨夜の行為を蘇えらせたレンは、身の置き所を無くすほどの感情の昂りに襲われた。

レンの高揚が伝わったのだろう、ケイはソファーの上で左膝を崩し、女の子のように横座して科を作った。
ケイの妖しく潤み始めた瞳に誘われ、レンはケイの隣に移動して、燻りだした身体の距離を縮めた。
無口になった二人は言葉の代わりにソファーの上に拡げた、触れ合う指先で、お互いの気持ちを伝え合った。
裸の身体を絡めるように、レンの指がケイの指の間を滑らすと、ケイの細い指もそれに応え、レンの指を締め付けた。二人は何を望み、何を求めているか、二人の心が重なり合う指先からも感じていた。
照れながらも隠さず、嬉しいという表情を向けるケイに、レンは息苦しくなるような愛おしさに、熱烈な恋に落ちていった。


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朝の秋晴れが東京に近づくにつれ雲行きが怪しくなり、戻った調布の家は、すでに雨に濡れていた。
これ以上バイトを休めないと、急ぐケイをレンはレンタカーを返却がてら駅まで送り、レンも午後の講義に間に合うように電車に飛び乗った。
今週初めて大学に顔を出したレンに、伊東のリゾートマンションを貸した友人は、レンが一緒に旅行に行った相手のことをあれこれ詮索し冷やかしたが、レンが出まかせで、高校時代の男の友人と行ったことを話すと、伸びた無精ひげと長髪のむさ苦しい風貌のレンに、妙に安心したような顔を向け、マンションの鍵と土産の羊羹を受け取った。
レンは大学の仲間にもケイとの共同生活のことは話していなかった。初めこそ感情の伴わない共同生活を送っていたが、二人が関係を持った今は、誰にも話すつもりはなかった。

遮光カーテンを引き、明りを消した暗い教室に映し出されるスライドを見詰め、古典絵画の講義を聞くレンの胸中に去来するのは、伊東で過ごしたケイとのことだった。
妖しいまでに潤んだケイの瞳に恋心を奪われ、同性同士とはいえ、初めて他人と肌を重ね、お互いの興奮した身体を宥めあった刺激的な行為。
教室の暗闇は伊東の夜を思い起こさせ、ケイの悩ましい裸体と、快感に歪む愛くるしい表情が瞼に浮かんだ。
講義のスライドは、バロック期に活動したイタリアの画家、グイド・レーニの宗教絵画を映し出していた。レーニの傑作「ゴリアテの首を持つダヴィデ」「幼児虐殺」に混じり映し出された「聖セバスチャンの殉教」にレンは目を剥き、息を呑んだ。

荒縄で交差する腕を頭上で縛られ、刑の執行に身を委ねる聖セバスチャンの大胆な構図、大理石のような真っ白な素肌、青年の裸体を覆う、腰の周りに緩やかに巻かれ白い布。
弓を入られた痛みとは明らかに違う、天に召されることへの悦びに浸るような恍惚とした表情を浮かべ、遥か天上を見上げるその姿に、レンは脳裏に写し撮った、あの夜のケイの姿態が蘇えった。
性別を曖昧にしたケイの浴衣姿に見惚れ、二人の無常の悦びが目の前にあると判って、抱き合った初めての夜。
薄明かりに浮かぶ、乱れた浴衣から露になったケイの肢体をレーニの絵画に重ねたレンは、激しい鼓動の高鳴りに襲われた。
レンは抑えようのない全身の疼きに脚を何度も組み直し、ノートにラフなクロッキーを描いた。レンはこれからすべきことは何かを直感し、居ても立っても居られなかった。


レンは部屋の真ん中に立ち、目を閉じ深々と深呼吸した。
すぐにベッドの前に座り込み、スケッチブックを拡げ、目の前に横たわる、あの夜のケイの姿態をデッサンしていった。
ケイ、君に夢中だった、あんなの初めてだった。なんだってしたいと思った。
二人のルールなんて一つ残らず破っても構わない。だからケイ、そのまま俺の傍に居てくれ、ずっとそそまま、傍に……。
「ケイ、愛している」

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