夜のお伽噺

アルのオリジナル小説置き場です

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ルル



いつものように午前様に帰宅した私は、コートの内ポケットの底からピンクの紙切れをつまみ出した。何かのメモ書きのようで、見覚えのない私はなんだろうと、四隅をきちんと揃えて折り畳まれたそれを開いた。


どうしてもお逢いしたくて
無礼を許しください
吉祥寺の「S」で待っています

               貴方と同じ色を持つルル


何時、何処でポケットに入れられたのか見当もつかなかった。メモの主は私が知っている者だろうか。「ルル」と名乗る酒場の源氏名のような名前で、記憶を呼び起こしてみたが思い当たる節はなかった。
丁寧な楷書で書かれた文字は単なる悪ふざけだとは思えず、「同じ色」と私の男色を見透かしたような文言に落ち着きをなくした私は、メモ書きを丸めてはゴミ箱に捨てた。
しかしメモに指定された日時が近づくにつれ、何時までも取れない奥深く刺さった棘のような不安を消すような、淡い期待と膨らむ好奇心を抑えることが出来なくなった私は、自分への言い訳をいろいろ考えては、指定された「S」に向かった。


ピアノトリオのジャズが流れる休日の昼下がりの「S」は若いカップルが目立ち、連れがいるからと勧められたカウンターを断り、店内が見渡せる奥のテーブルに私は腰を下ろした。
店内を見廻しても、私の知った顔はいなかったが、カウンターの隅に腰掛けていた青年が立ち上がると、注文を取りに来たウエイトレスと入れ替わるように、テーブルに近づいて来て、私の前で立ち止まった。

「ご一緒してもよろしいでしょうか」
「君が・・」
「ルルです」
柔らかそうな前髪を斜めに分け、色白の瓜実顔の青年の微笑みに見惚れた私は、無言で椅子を勧めるのが精一杯だった。

「きっと来てくれると思っていました」
「僕の見当違いではなかった」
「貴方から同じ色を嗅ぎ取っていました」
「どこかでお会いしましたかな」
「話さなければいけませんか」
「君が話したくなければ、あえて聞きませんが・・」
胸元が割れた濃いブルーのニットから覗く滑らかそうな素肌、丸い腰のラインを強調する細い黒のパンツ。ルルの中性的な妖しいスタイルに惑わされ、密かに欲情をそそられた私は今日の出会いの経緯など、どうでもよくなってしまっていた。

「君の名前は歌劇のルルからかな」
「貴方なら分かってくれると思っていました」
ルルは嬉しそうに頷いて、運ばれてきたワインを一口し、グラスの淵に付いた薄いリップを親指で拭った。


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ルル 2



三鷹駅からバスに揺られ、指定された児童公園で降りた私は、手袋を外しメールを送信した。
昼間なら幼い子が駆け回り、コートの襟を立て公園の柵に寄りかかる私は、若い母親に不審者扱いされるだろが、9時を廻った今はそんな心配も必要なかった。
つま先が冷え込みだした頃、公園の脇道からダウンを羽織った女性が現れ、その女性と目を合わせることを躊躇った私は、おもむろに携帯を取りだし、画面に目を落とした。

「お待たせしました」
白い息を吐く聞き覚えのある声に顔を上げた。
「ルル?」
口元を隠すように巻いた淡いピンクのストールを緩め、微笑んだルル。髪を栗毛色に変え化粧を施し、スカートを穿いたルルの姿に声も出なかった。


ルルとの特別な出会い、いや、ルルに仕掛けられた出会と言うべきだろうか。ポケットに入れられた小さなメモに好奇心がかられ、出掛けたあの日。警戒心が解けない私の前に現れたルルに見惚れてしまった。ルルの中性的な身体つきと仕草に欲情が煽られ、私の強引な誘いにルルは妖しく頷いた。ベッドの上で苦悶するルルのたおやかな肢体と興奮は、年甲斐もなく私を夢中にさせ、ルルの面接と実技試験にどうにか合格した私は、再会を約束した。

母親と二人住まいのルルは、家から離れた場所に部屋を借りていた。ルルの素性など誰も知らない所に。その部屋で、ルルは日頃押さえ込んでいた本心を解き、願望と性癖を発散させ、心のバランスを取っているようだった。ホテルの部屋では自分の想いを満たすことができないと遠回しに告白したルル。ルルの小さな願いに理解を示した私は、今夜その部屋に招かれたのだった。




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